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庵を訪れる影—母のように、友のように

夕陽に照らされた竹林の向こうから、柔らかな足音が響いた。

「……あら、やっぱりここは落ち着くわね」

振り向いた六人の目に映ったのは、旅装束に身を包んだ一人の女性。

長い金髪をまとめ、薄布のフードを外したその姿は――エリシア。

だが彼女は王妃ではなかった。

今この場にいるのは、庵をよく訪れる一人の女性“セレス”だった。

「セレスさん!」

アマネが真っ先に駆け寄り、嬉しそうに笑う。

「驚かせちゃったかしら?」

エリシア――いや、セレスは小さく肩をすくめて微笑んだ。

「ちょっと抜け出してきただけ。ここに来れば、わたしも少しは自由になれるから」

その言葉に、アルトの表情がわずかに揺れる。

だが彼女は王妃としてではなく、ただの“庵の常連”として皆に混じって腰を下ろした。

縁側に座り、リュシアの隣にそっと腰を下ろす。

「……少し痩せた?」

その問いかけに、リュシアは肩をすくめて目を伏せた。

「学院で、周りから『聖女らしくあれ』と……。どうすればいいのか、時々分からなくなります」

言葉はか細い。けれど、それを吐き出せたこと自体が変化だった。

セレスは柔らかく笑った。

「ふふ……人はね、完璧な仮面より、不器用な本音に心を寄せるのよ。

リュシアはもう、人形なんかじゃないわ」

「……セレス様」

その瞳が、かすかに潤む。

すると、庵の奥から顔を出したアサヒが、湯気の立つ茶碗を持って現れた。

「リュシア、あなたはもう変わってるわ。

ここに来た時よりずっと……素直に笑えるし、時に怒れるようになった」

「アサヒさん……」

「だから心配しなくていい。型に押し戻されても、あなたの中の“声”は消えない」

リュシアの肩から力が抜け、そっと微笑みが零れる。

「……私は、私でいていいんですね」

セレスは頷き、彼女の髪を撫でた。

「ええ。役割の前に、あなたはリュシアという一人の娘。

それを忘れなければ、きっと大丈夫」

その場にいた他の仲間も、静かにその言葉を聞いていた。

ジークは腕を組んで「……ちょっと安心した」と呟き、カイルは眼鏡を直しながら何かを考えている様子。

アマネはリュシアの手をぎゅっと握り返し、アルトは黙って目を細めた。

セレスは一同を見渡して、ぱっと笑みを浮かべた。

「さて……ちょっと堅苦しくなったわね。そろそろお腹が空いたんじゃない?」

「そういや腹減った!」

ジークが即答して、場が一気に和む。

「じゃあ今日は私が腕をふるうわ!」

ミナが勢いよく手を挙げた。

「楽しみね」セレスがにっこり微笑む。

「なら、私とアサヒは補助に回るわ」

――こうして、庵の食卓の支度が始まった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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