表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/471

力と静けさ—庵の庭の試練

庵の庭。

竹林の隙間から射す光が、まだら模様を地面に描いていた。

その真ん中で、ルシアンとジークが向かい合っていた。

「……来い」

静かな声。だが、その眼差しに一切の隙はない。

「言われなくても!」

ジークが大剣を振り上げ、地を蹴った。

豪快な斬撃が風を裂く――。

だが、ルシアンは動じない。

半歩傾けるだけで刃は空を切り、ジークは勢い余って体勢を崩す。

その胸を軽く押され、土埃の中に転がった。

「なっ……!」

「……すごい」

木陰から見ていたアマネが息を呑む。

隣のアルトも目を細めた。

「避けただけじゃない……。力を使わせて、無駄を突いたんだ」

ジークはすぐに立ち上がり、歯を食いしばって再び斬りかかる。

何度も、何度も――。

しかし結果は同じ。

刃は届かず、いなされ、転がされる。

やがて、肩で息をする彼にルシアンが一言。

「強いな」

ジークの動きが止まる。

「だが……どこを見ている?」

短い問いかけに、ジークの胸がざわついた。

「俺は……っ」

言いかけて、言葉にならない。

ルシアンは視線を外さず、静かに続けた。

「力はある。だが、零れる」

「……零れる?」

「仲間を見ろ。それができれば……」

言葉を切り、ただ庭の向こうを示す。

ジークの拳が震える。

反論したい、けれど胸の奥に引っかかる痛みが消えなかった。

(分かってる……けど、認めたくねぇ……)

試練の後。

夕暮れが庭を赤く染める。

ジークは黙ったまま剣を背に収めた。

「ジーク……」

アマネが心配そうに呼ぶ。

「大丈夫だ」

短く返す声は掠れていた。

けれど、その瞳にはいつもの頑固さに、わずかな揺らぎが混じっていた。

アルトが静かに口を開く。

「仲間の声を聞くのは、俺も難しい。……でも、必要なんだ」

ジークは振り返り、わずかに目を細める。

「ったく。王子に同情されるなんてな」

吐き捨てながらも、その拳はぎゅっと握られていた。

縁側に立つルシアンは、空を仰いでいた。

「……若いな」

微かな笑みを浮かべ、竹林を渡る風に目を細める。

庭を吹き抜けたその風は、どこか柔らかかった。


読了感謝!いけるところまで連続投稿でお届けします(不定期・毎日目標)。

よければブクマ&感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ