力と静けさ—庵の庭の試練
庵の庭。
竹林の隙間から射す光が、まだら模様を地面に描いていた。
その真ん中で、ルシアンとジークが向かい合っていた。
「……来い」
静かな声。だが、その眼差しに一切の隙はない。
「言われなくても!」
ジークが大剣を振り上げ、地を蹴った。
豪快な斬撃が風を裂く――。
だが、ルシアンは動じない。
半歩傾けるだけで刃は空を切り、ジークは勢い余って体勢を崩す。
その胸を軽く押され、土埃の中に転がった。
「なっ……!」
◇
「……すごい」
木陰から見ていたアマネが息を呑む。
隣のアルトも目を細めた。
「避けただけじゃない……。力を使わせて、無駄を突いたんだ」
ジークはすぐに立ち上がり、歯を食いしばって再び斬りかかる。
何度も、何度も――。
しかし結果は同じ。
刃は届かず、いなされ、転がされる。
やがて、肩で息をする彼にルシアンが一言。
「強いな」
ジークの動きが止まる。
「だが……どこを見ている?」
短い問いかけに、ジークの胸がざわついた。
「俺は……っ」
言いかけて、言葉にならない。
ルシアンは視線を外さず、静かに続けた。
「力はある。だが、零れる」
「……零れる?」
「仲間を見ろ。それができれば……」
言葉を切り、ただ庭の向こうを示す。
ジークの拳が震える。
反論したい、けれど胸の奥に引っかかる痛みが消えなかった。
(分かってる……けど、認めたくねぇ……)
◇
試練の後。
夕暮れが庭を赤く染める。
ジークは黙ったまま剣を背に収めた。
「ジーク……」
アマネが心配そうに呼ぶ。
「大丈夫だ」
短く返す声は掠れていた。
けれど、その瞳にはいつもの頑固さに、わずかな揺らぎが混じっていた。
アルトが静かに口を開く。
「仲間の声を聞くのは、俺も難しい。……でも、必要なんだ」
ジークは振り返り、わずかに目を細める。
「ったく。王子に同情されるなんてな」
吐き捨てながらも、その拳はぎゅっと握られていた。
◇
縁側に立つルシアンは、空を仰いでいた。
「……若いな」
微かな笑みを浮かべ、竹林を渡る風に目を細める。
庭を吹き抜けたその風は、どこか柔らかかった。
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