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帰る場所—庵での準備

夏の陽が傾き始めたころ。

森を抜ける風に乗って、小川のせせらぎと虫の声が耳に届く。

「……ただいま」

木戸を押し開けた瞬間、胸の奥にじんわりと温かさが広がった。

学園の寮とは違う。ここは――庵。

「おかえりなさい、アマネ」

柔らかな声とともに、アサヒが姿を現した。

淡い色の着物に袖を通し、懐かしい笑顔を向けてくれる。

「少し痩せたんじゃない? たくさん食べさせないとね」

「無事に戻ったか」

低い声でルシアンが言う。手には小刀と削りかけの木片。

相変わらずの無骨さだけど、その視線はどこか優しい。

アマネは思わず笑みをこぼす。

「……やっぱり、ここが私の帰る場所です」

夕刻。

庵の土間には、荷解きした学園の鞄と、これから迎える仲間たちのための準備が並んでいた。

アサヒは台所で保存食や干し肉を整え、草花を束ねた。

「皆が集まるなら、部屋を少し飾ってあげましょう」

手際よく色とりどりの花が壺に生けられていく。

ルシアンは庭で薬草を選別し、瓶に詰めて並べる。

「夏は体力を消耗する。特にミナ嬢やリュシア嬢は無理をしやすい」

その横でアマネは、手ぬぐいを巻いて薪を割っていた。

汗が額を流れるけど、不思議と苦ではない。

「アマネ」

ふと視線を上げると、カグヤが縁側にちょこんと座っていた。

白い尾を揺らし、じっとこちらを見ている。

「ふふ……みんなが来るの、楽しみだね」

声はない。けれどその金色の瞳が、確かにそう語っていた。

精霊は木漏れ日の中で光の粒を生み出し、小さな灯りを散らして遊んでいる。

アマネはそれを見上げながら、胸の奥で小さく誓った。

――ここで、みんなを迎える。

――私ができることを。

夜。

囲炉裏の火が静かに揺れ、夕餉の香りが庵を包んだ。

ルシアンとアサヒの笑顔に囲まれて、アマネは湯気の立つ椀を手にする。

「明日から、賑やかになるわね」

アサヒの声に、アマネは頷いた。

「はい。みんなが安心できるように、準備しておきます」

その言葉は、まるで小さな家の主のようで――

二人の守護者は、目を細めて静かに頷いた。

夏の夜の空には、星が静かに瞬いていた。

庵の灯火は、仲間を迎えるための道標のように輝いていた。


読了感謝!いけるところまで連続投稿でお届けします(不定期・毎日目標)。

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