幕間:雑音の向こう—ジークの独り言
男子寮の一室。
ジークはベッドに仰向けになり、手のひらの上で小さな装置を転がしていた。
「ったく……また妙なもん押しつけやがって」
指先で軽く叩くと、装置がジジッと不快な音を立てる。
その瞬間、耳にあの声がよみがえった。
――『ねぇ、ジーク。私、庵に行きたいんだ』
ほんの数秒。
雑音混じりで、よく聞こえなかったはずなのに。
なぜか、その必死な響きだけは鮮明に胸に残っている。
「……勝手に決めろ。言ったのは俺だしな」
ぶっきらぼうに呟いて、顔をそむける。
けれど次の瞬間。
ジークは装置を乱暴に机の引き出しへ放り込もうとして――やめた。
「……落としたら壊れるだろ。仕方ねぇ、持っといてやる」
腰のポーチに収める。
わざわざ位置を確かめて、しっかり留め具まで閉めた。
「チッ……俺が何やってんだか」
そう悪態をつきながらも、心の奥はどこか軽い。
雑音混じりの短いやりとり。
それでも、あの声を聞いた自分だけは――少し特別だと思っていた。
夏の夜風が窓から入り、部屋のカーテンを揺らす。
ジークは背を壁に預け、目を閉じた。
(……庵か。悪くねぇな)
彼の胸に小さく芽生えた想いは、まだ言葉にはならなかった。
読了感謝!いけるところまで連続投稿でお届けします(不定期・毎日目標)。
よければブクマ&感想お願いします。