発明と約束—途切れる声の向こうに
学園の女子寮。
夏休み前の片づけに追われながら、ミナは机の上で最後の部品をねじ込んでいた。
小さな金属の輪に宝石を埋め込み、魔力を込めると――かすかに青い光が点滅する。
「よしっ……! これで、なんとか」
懐中時計ほどの大きさの装置。
通信機――彼女の最新の発明だった。
◇
「……やっぱり、庵に行きたい」
誰もいない部屋で小さく呟く。
けれど、その思いを縛るのは家から届いた書状だった。
“婚約の話が進んでいる”――父の筆で綴られた文字が、胸を重くする。
「婚約者なんて……勝手に決めないでよ」
握った拳が震える。
◇
その夜。
ミナは通信装置を手に取り、魔力を込めてみた。
「……ジーク? 聞こえる?」
――ジ……ジ……ガガッ……。
しばしの雑音のあと、ぶっきらぼうな声が返ってきた。
『……おい……なんだ、これ……耳が……キーンって……!』
思わず笑いが漏れる。
「やっぱり通じた! これ、私の新しい発明なの!」
『はぁ!? ……また俺で実験かよ! 休ませろっての!』
途切れ途切れの声。
でも、それでもミナは言葉を続けた。
「……ねぇ、ジーク。私、庵に行きたいんだ。みんなと一緒に……」
しばしの沈黙。
そして、雑音の奥から投げつけるような声が届いた。
『なら、行け! 誰がなんて言おうと、お前のやりたいことやれ!』
一瞬、胸の奥が熱くなる。
「……ありがと。やっぱり、あなたに言ってよかった」
ミナは装置を胸に抱きしめた。
通信はすぐに途切れたけれど、その短い言葉が十分だった。
◇
翌朝。
荷物をまとめるミナの顔は、昨日よりずっと明るかった。
婚約の重圧は消えていない。
けれど――彼女には、支えてくれる仲間がいる。
(庵で、ちゃんと自分を見つけるんだ……)
夏の陽射しが窓から差し込み、彼女の決意を照らしていた。
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