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幕間:カイルの準備—揺るがぬ理と、小さな決意

ソレイユ王都の一角。

アウグスティヌス邸の書斎には、紙とインクの匂いが満ちていた。

大きな窓から差す午後の光に、銀髪の男の影が長く伸びている。

「――庵、だと?」

父アウレリウスの声は冷ややかで、鋼のように硬い。

「はい。学院の友人たちと、しばしの合宿を」

カイルは姿勢を正し、視線を逸らさずに答えた。

「辺境の無名の集団に、何を学ぶ。聖堂の蔵書と、正統の学びこそが全てだ」

アウレリウスの指が机を叩く。まるで一つの判決を告げるように。

カイルの唇がわずかに動く。

――確かに、教会の知は体系化され、正しさを誇っている。

だが学院で過ごした一年、彼は気づいた。

「正しさ」がすべてを救うわけではないことに。

「……父上の仰ることは理解しています。ですが、私は――確かめたいのです」

「確かめる?」

「学園では辿れなかった資料があります。古文書の写しを庵で整理すれば、新しい糸口が見えるかもしれない」

言葉は正論の衣をまとっていたが、その奥にあるのはただの直感だった。

庵には、自分の理屈を超えた「何か」が眠っている気がする。

アウレリウスはしばらく黙し、やがて肩を落とした。

「愚行でないことを祈る。……だが、選ぶのはお前だ」

背を向けた父の声は、諦めとも、信頼ともつかない響きだった。

書斎を出たカイルは、私室の机に置かれた荷造りの鞄を開けた。

服と書物の間に、自作の魔道具がいくつか忍ばせてある。

光を蓄える石。未完成の簡易結界装置。

――実験の余地は、庵の方が広い。

窓辺に座っていた母が、柔らかく微笑んだ。

「無茶はしないでね、カイル。あなたはいつも考えすぎるから」

その声に、胸の緊張がわずかに緩んだ。

鞄の留め具を閉じる音が響く。

「……考えるだけじゃ、答えは見えない。だから行くんだ」

カイルは小さく呟き、拳を握った。

庵で、自分の理を試すために。

そして、父が語らぬ「真実」に近づくために。


読了感謝!いけるところまで連続投稿でお届けします(不定期・毎日目標)。

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