夏休みの約束—庵への道標
学院講堂に鐘の音が響いた。
壇上に立つエジル学園長の声が、終業式の締めくくりを告げる。
「以上をもって、一学期を終える。……各々、安全で実りある休暇を過ごすように」
一斉に拍手が広がり、張り詰めていた空気が解けていく。
重苦しい戦いの日々のあとに訪れた“夏休み”――その響きは、生徒たちの胸を軽くした。
◇
式のあと。
中庭の木陰に腰を下ろした六人は、ひとときの涼風を浴びながら話し合っていた。
「いやぁ、やっと休みだな!」ジークが豪快に腕を伸ばす。
「休みといっても、どう過ごすかが問題です」カイルは眼鏡を押し上げ、相変わらず冷静だ。
少し間を置き、リュシアが小さく口を開いた。
「……私は。ルシアンさんやアサヒさんに、もう一度お会いしたいです」
その言葉に、アマネがぱっと顔を上げる。
「はいっ! わたしも戻りたいです。……庵は、わたしの“帰る場所”ですから」
無邪気な笑顔は、夏の日差しよりもまぶしくて――自然に皆の胸へ染み込んだ。
「庵か! いいじゃん!」ミナが目を輝かせる。
「私も行きたい! 美味しいもの食べられそうだし!」
「結局そこか」ジークが呆れながらも笑う。
「……でも悪くねぇな。鍛錬にもなるし」
「学園以上の学びが、庵にはありそうだ」カイルも小さく同意する。
やがて、皆の視線はアルトへ集まった。
彼は少し戸惑い、けれど真っ直ぐに答える。
「……俺も行きたい。ルシアンさんに伝えたいんだ。
勇者かどうかじゃなく、仲間と歩むって――その答えを見つけたことを」
その言葉に、仲間たちの表情がやわらいだ。
「決まりですね、アルト様!」アマネが嬉しそうに笑った。
「夏休みは、庵で合宿です!」
◇
夏風が中庭を抜け、木々を揺らす。
笑い合いながら歩き出す六人の影は、まだ幼い。
けれど確かに、互いの影と重なり合いながら、少しずつ大きくなっていく。
――それぞれの答えを抱え、彼らの夏は始まろうとしていた。
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