表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/471

クラス分け――見えない序列

入学式の余韻が消えぬまま、講堂脇の回廊に人だかりができていた。

羊皮紙が壁に貼り出され、三つの見出し――「A」「B」「C」が黒々と並んでいる。

「よし、人垣は高すぎる。非常階段」

ミナが私の袖を引く。

「非常階段?」

「上から見れば早い。効率は正義」

半ば引きずられて段を駆け上がり、手すりに身を乗り出すと、紙面が視界に飛び込んできた。

――A。

アルト・ソレイユ。

リュシア・フォン・カーディナル。

カイル・フォン・アウグスティヌス。

ジーク・フォン・ヴァルハルト。

ざわめきが「当然だ」という同意に変わる。

「勇者候補の班だな」「王族と聖女、伯爵家に教会貴族……完璧だ」

――B。

軍事侯爵や地方領主の子弟たちの名が並ぶ。

強面の少年や、長身の令嬢の名も混じっていた。

――C。

アマネ。

ミナ・フォン・カストレード。

……そして庶民の姓が続く。

胸の奥が小さく沈んだ。Aでも、Bでもない。支援・雑用のクラス。

「庶民枠はCだな」

「せいぜい後方で荷運びと計算でもしていろ」

近くの父兄の笑い声が、針のように突き刺さる。

階下で監督官が声を張った。

「本日のクラス分けは適性と筆記に基づく。Aは統合実戦、Bは戦闘特化、Cは支援・運用――いずれも国に不可欠であり、優劣はない」

……優劣はない。そう言い切る声が、逆に差を際立たせていた。

「沈むのは自由。でも、沈んだまま歩くのは禁止」

ミナが肘で私を小突く。

「……うん」

「それにCは工房枠が広い。発明も研究もやり放題。効率はこっちの勝ち」

強がりに見えたが、目は本気で輝いていた。

私は深呼吸を一つして、羊皮紙の自分の名に指先をそっと触れる。

――数字は地図。道は、自分の言葉で。

その時、Aに名を連ねた四人が通路を横切った。

白衣の聖女は笑みを保ったまま視線を落とし、第二王子は礼を絶やさず、カイルは帳面に何かを書き込み、ジークは一瞥もせず前を見て歩いた。

輪の外にいる私には、透明な壁があるように感じた。

だが、壁は永遠じゃない。

次に訪れる「演習」で、AとCは混ぜ合わされる。

「主戦を支える実戦訓練」と称して。

庶民は支える者、貴族は戦う者――それを刷り込む教育。

三ヶ月後。

その輪の中で、私は何を示せるのだろう。

窓の外で鐘が鳴り、午後の光が羊皮紙に差し込んだ。

「アマネ」

ミナが小声で笑った。

「私たちの輪、作ろう。小さいけど、丈夫なやつ」

「……うん。丈夫なの、作ろう」

胸の奥に、小さな光が一つ、確かに灯った。


お読みいただきありがとうございます。引き続き不定期・毎日目標で載せていきます。ブクマ&感想が励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ