クラス分け――見えない序列
入学式の余韻が消えぬまま、講堂脇の回廊に人だかりができていた。
羊皮紙が壁に貼り出され、三つの見出し――「A」「B」「C」が黒々と並んでいる。
「よし、人垣は高すぎる。非常階段」
ミナが私の袖を引く。
「非常階段?」
「上から見れば早い。効率は正義」
半ば引きずられて段を駆け上がり、手すりに身を乗り出すと、紙面が視界に飛び込んできた。
――A。
アルト・ソレイユ。
リュシア・フォン・カーディナル。
カイル・フォン・アウグスティヌス。
ジーク・フォン・ヴァルハルト。
ざわめきが「当然だ」という同意に変わる。
「勇者候補の班だな」「王族と聖女、伯爵家に教会貴族……完璧だ」
――B。
軍事侯爵や地方領主の子弟たちの名が並ぶ。
強面の少年や、長身の令嬢の名も混じっていた。
――C。
アマネ。
ミナ・フォン・カストレード。
……そして庶民の姓が続く。
胸の奥が小さく沈んだ。Aでも、Bでもない。支援・雑用のクラス。
「庶民枠はCだな」
「せいぜい後方で荷運びと計算でもしていろ」
近くの父兄の笑い声が、針のように突き刺さる。
階下で監督官が声を張った。
「本日のクラス分けは適性と筆記に基づく。Aは統合実戦、Bは戦闘特化、Cは支援・運用――いずれも国に不可欠であり、優劣はない」
……優劣はない。そう言い切る声が、逆に差を際立たせていた。
「沈むのは自由。でも、沈んだまま歩くのは禁止」
ミナが肘で私を小突く。
「……うん」
「それにCは工房枠が広い。発明も研究もやり放題。効率はこっちの勝ち」
強がりに見えたが、目は本気で輝いていた。
私は深呼吸を一つして、羊皮紙の自分の名に指先をそっと触れる。
――数字は地図。道は、自分の言葉で。
その時、Aに名を連ねた四人が通路を横切った。
白衣の聖女は笑みを保ったまま視線を落とし、第二王子は礼を絶やさず、カイルは帳面に何かを書き込み、ジークは一瞥もせず前を見て歩いた。
輪の外にいる私には、透明な壁があるように感じた。
だが、壁は永遠じゃない。
次に訪れる「演習」で、AとCは混ぜ合わされる。
「主戦を支える実戦訓練」と称して。
庶民は支える者、貴族は戦う者――それを刷り込む教育。
三ヶ月後。
その輪の中で、私は何を示せるのだろう。
窓の外で鐘が鳴り、午後の光が羊皮紙に差し込んだ。
「アマネ」
ミナが小声で笑った。
「私たちの輪、作ろう。小さいけど、丈夫なやつ」
「……うん。丈夫なの、作ろう」
胸の奥に、小さな光が一つ、確かに灯った。
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