新たな季節—支える者の誓い
学院の鐘が、夏の訪れを告げるように澄んだ音を響かせた。
戦いの爪痕はまだ校舎のあちこちに残っていたが、生徒たちの声は再び中庭を満たし、日常のざわめきが戻りつつあった。
◇
昼下がりの図書館。
高窓から射し込む陽射しが机の上を照らし、アルトは膝の上に置いた古書を静かに閉じた。
表紙に刻まれた題名は――『勇者史』。
歴代の勇者たちの名と、その犠牲の記録が重く連なっている。
(……勇者、か)
ページを追いながらも、そこに自分の姿を重ねることはできなかった。
――あの戦いを終えた今でも。
勇者と呼ばれても、胸の奥にはまだ違和感が残っている。
「アルト様」
振り返ると、アマネが笑顔で立っていた。
腕に抱えたノートを胸に当て、いつもの調子で声をかける。
「皆で課題をやろうって、裏庭に集まってるんです。……ご一緒にいかがですか?」
その笑みに、張り詰めていた胸がふっと温かくなる。
勇者かどうかなんて、関係ない。
守りたいのは、この笑顔であり、この仲間たちだ。
「……行こう」
小さく息を整え、アルトは立ち上がった。
◇
裏庭では、すでにいつもの光景が繰り広げられていた。
「だからよ、力任せで押し切るのが一番だろ!」
「効率を考えろ、効率を!」
ジークとカイルが言い合いを始め、ミナが呆れ顔で「男子はほんと単純」と笑う。
リュシアは静かにノートを広げ、彼らを温かく見守っていた。
その中に歩み入りながら、アルトの口元は自然と緩んでいた。
(……ああ、これだ。これが、俺の居場所だ)
勇者としてではなく。
仲間の一人として、共に笑い合える場所。
アルトは剣を握るように拳を握り、心の奥で誓った。
――俺は勇者じゃないかもしれない。
――けれど、仲間を支える者でありたい。
――アマネを、皆を、必ず守り抜く。
その決意は誰にも告げない。
けれど確かに胸の奥で燃えていた。
◇
夏風が木々を揺らし、青空に白い雲が流れていく。
六人の笑い声が学院の庭に広がり、未来へと続く道を照らしていた。
――これはまだ、始まりにすぎない。
やがて訪れる嵐も、試練も、彼らを待ち受けている。
だが今はただ、仲間と共にあるこの一瞬が、何よりの力だった。
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