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新たな季節—支える者の誓い

学院の鐘が、夏の訪れを告げるように澄んだ音を響かせた。

戦いの爪痕はまだ校舎のあちこちに残っていたが、生徒たちの声は再び中庭を満たし、日常のざわめきが戻りつつあった。

昼下がりの図書館。

高窓から射し込む陽射しが机の上を照らし、アルトは膝の上に置いた古書を静かに閉じた。

表紙に刻まれた題名は――『勇者史』。

歴代の勇者たちの名と、その犠牲の記録が重く連なっている。

(……勇者、か)

ページを追いながらも、そこに自分の姿を重ねることはできなかった。

――あの戦いを終えた今でも。

勇者と呼ばれても、胸の奥にはまだ違和感が残っている。

「アルト様」

振り返ると、アマネが笑顔で立っていた。

腕に抱えたノートを胸に当て、いつもの調子で声をかける。

「皆で課題をやろうって、裏庭に集まってるんです。……ご一緒にいかがですか?」

その笑みに、張り詰めていた胸がふっと温かくなる。

勇者かどうかなんて、関係ない。

守りたいのは、この笑顔であり、この仲間たちだ。

「……行こう」

小さく息を整え、アルトは立ち上がった。

裏庭では、すでにいつもの光景が繰り広げられていた。

「だからよ、力任せで押し切るのが一番だろ!」

「効率を考えろ、効率を!」

ジークとカイルが言い合いを始め、ミナが呆れ顔で「男子はほんと単純」と笑う。

リュシアは静かにノートを広げ、彼らを温かく見守っていた。

その中に歩み入りながら、アルトの口元は自然と緩んでいた。

(……ああ、これだ。これが、俺の居場所だ)

勇者としてではなく。

仲間の一人として、共に笑い合える場所。

アルトは剣を握るように拳を握り、心の奥で誓った。

――俺は勇者じゃないかもしれない。

――けれど、仲間を支える者でありたい。

――アマネを、皆を、必ず守り抜く。

その決意は誰にも告げない。

けれど確かに胸の奥で燃えていた。

夏風が木々を揺らし、青空に白い雲が流れていく。

六人の笑い声が学院の庭に広がり、未来へと続く道を照らしていた。

――これはまだ、始まりにすぎない。

やがて訪れる嵐も、試練も、彼らを待ち受けている。

だが今はただ、仲間と共にあるこの一瞬が、何よりの力だった。


お読みいただきありがとうございます。

いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。


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