ひとときの安らぎ—仲間と過ごす朝
学院に再び鐘の音が響く。
あの激闘から数日、ようやく学園の空気は落ち着きを取り戻しつつあった。
食堂
まだ焼け焦げの跡が残る校舎を横目に、生徒たちは少しずつ日常を取り戻している。
香ばしいパンの匂いと、湯気を立てるスープの温かさ。張り詰めた空気は和らぎ、安堵が混じり始めていた。
「……やっと普通の朝飯だな」
ジークが大きな欠伸をしながらパンをかじる。
「ふふ、普通って大事だよね」
アマネがにこやかに答える。その笑顔は、場の空気を柔らかくした。
「結界の修復も、今日で一区切りらしい」
リュシアが器を手にしながら静かに言う。
「先生方も、ようやく夜通しの見回りから解放ってわけだな」カイルが淡々と続ける。
「良かったぁ……これ以上徹夜したら肌が荒れるところだったわ」
ミナが肩をすくめると、場は一気に和やかになった。
アルトはそんなやりとりを見守りながら、スープを口に運ぶ。
胸の奥に浮かんでくるのは――「皆で乗り越えた」という確かな実感だった。
教室
再開された授業。黒板にチョークが走る音が妙に懐かしく響く。
その横顔を見つめながら、カイルが声を潜めた。
「なぁアルト。……よく立ってられたな。普通なら膝から崩れてるぜ」
「いや、俺一人じゃ無理だった。みんながいたからだ」
アルトは真顔で答える。
「結局、最後まで俺は剣を振るっただけだ。守られて、支えられて……それで届いたんだ」
カイルは少し黙ったのち、眼鏡を押し上げて口の端を上げた。
「……そういうとこが、お前らしいんだよな」
裏庭・夕暮れ
淡い夕陽が差し込む中、六人は腰を下ろし、静かに風を感じていた。
「なんかさ」ジークがぽつりと口を開く。
「こうしてると、本当に夢みたいだよな。この間までの戦いがさ」
「夢じゃないよ」
アマネが小さく答える。
「でも、悪夢でもない。……だって、こうしてみんな、生きてここにいるんだから」
その横顔を見た瞬間――アルトの胸が跳ねた。
なぜだか分からない。勇者の責務を果たした安堵でも、戦いを生き延びた喜びでもない。
ただ、アマネの笑みを見ていると心臓が熱を帯び、息が詰まる。
(……なんで、こんなに)
思考が絡まり、言葉にならない。
アルトは小さく首を振り、誤魔化すように視線を夕陽へ逸らした。
「……そうだな。俺たちで掴んだ勝利だ」
その声は少し硬かったが、仲間たちは気にせず頷いた。
夕陽に照らされた六人の影は、重なり合いながら一つに伸びていく。
アルトの胸奥には、言葉にできない小さなざわめきが残った。
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