会議の影—学園のこれから
学院の最上階、円卓の間。
重厚な扉が閉じられると、外の喧噪はすべて遮断され、石造りの空間に緊張が漂った。
長机を囲むのは学園長エジルをはじめとする教師陣と役員たち。
蝋燭の明かりが揺れ、沈黙を破ったのは書記役の声だった。
「……今回の件について報告いたします。影の魔物の出現、さらにラインハルト・グランツの暴走。生徒たちは重大な危機に晒されました。
しかしながら、アルト・ソレイユ殿下を中心とする六名がこれを討伐。学院としては“大いなる成果”と評価できるかと」
一瞬の沈黙。だがすぐに数人の教師が拍手を送った。
その音は心からの称賛というより、場を埋めるためのものだった。
「成果だと?」
重々しい声で卓を叩いたのは、エジル学園長だった。
「生徒が命を落としかけたのだ。偶然の上に立った勝利を“成果”と呼ぶのは軽率ではないか」
対面に座る宰相派の騎士教官バルド・エッケルが鼻で笑う。
「偶然ではありません。アルト殿下が“勇者としての力”を示した結果です。
王都に報告するには十分すぎる功績でしょう。むしろ誇らしく伝えるべきですな」
「……生徒たちを駒のように扱うのはやめろ」エジルの声は低く鋭い。
「次があれば、今度こそ取り返しがつかん犠牲が出る」
しかし別の宰相派教授が続ける。
「だからこそ、勇者殿下を早く鍛え上げる必要がある。今回の勝利は、その“適性”を示したに他ならん」
「学院は未来の勇者を育てている――そう王都に示す好機だ」
議論は平行線を辿った。
安全を優先すべきだと訴える者。
勇者を押し出すべきだと主張する者。
だが、その奥で誰もが気づいていた。
――宰相ヴァレンティスの影が、学院の方針に深く食い込んでいることを。
エジルは深く目を閉じ、短く息を吐く。
(……勇者と聖女、依代の影。すべてはまだ動き始めたばかりだ。だが――あの子たちが示した“支え合う力”だけは、確かな希望だ)
◇
その頃。
学院の中庭では、復興作業を終えた生徒たちが一息ついていた。
ジークが豪快に肉を頬張り、ミナが効率よく配膳を仕切る。
「はいはい、次! バランスよく並べて!」
「おい、俺の分は大盛りな!」
二人の掛け合いに、周囲から笑い声が上がる。
カイルは記録帳を閉じて苦笑し、リュシアはそっと治癒の魔法を使って仲間の小さな傷を癒していた。
アマネは子どもたちと一緒に瓦礫を運び、汗を拭いながら笑顔を見せる。
その姿を見て、アルトは胸の奥に熱を覚えた。
(……これだ。誰か一人じゃない。みんなで戦って、みんなで支えた)
夕暮れの風が、赤く染まった空を渡っていく。
中庭には、戦いの後だからこそ強くなった絆の光が確かに息づいていた。
だが同じ時刻。
王都の遠く離れた一室で、宰相ヴァレンティスの視線だけが、静かに彼らを見据えていた。
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