静かな日常—復興と再生
学院に静けさが戻ったのは、数日後のことだった。
瓦礫を片づける音、修復魔法の詠唱、木槌が石を打つ響き。
喧騒はあるが、それは戦いのものではなく――“再生”の音だった。
◇
「よし、こっちは片づいたぞ!」
ジークが大きな石を肩に担ぎ上げ、豪快に汗を拭う。
「バランス見て積んでよ! 崩れたらやり直しだから!」
ミナがゴーグルを下げて声を張る。
二人の掛け合いに周囲の下級生たちが笑い、重たい空気が少し軽くなる。
「……まったく。騒がしい現場監督と力仕事担当だな」
カイルが眼鏡を押し上げる。だが記録の手を止めずに、口元をわずかに緩めていた。
少し離れた場所では、アマネが新一年生に石運びを頼みながら笑顔を見せていた。
「ありがとう! 助かるよ」
その声に励まされたのか、小さな子どもたちまで率先して動き出す。
自然と周囲に温かな輪ができていった。
アルトはその光景を横目に、胸の奥が不意に熱を帯びるのを感じた。
(……まただ。どうして、こんなに)
一瞬心臓が跳ねる。慌てて首を振り、作業に戻った。
◇
「アルト様」
声をかけてきたのはリュシアだった。庵での経験が影響してか、その表情は以前より柔らかい。
「……今、何を考えていましたか?」
「俺は……」アルトは迷い、けれど正直に答えた。
「みんなで勝ててよかったって。あの時、一人じゃ絶対に無理だった」
リュシアは小さく頷き、淡く微笑んだ。
「その答えこそ、大切なんだと思います」
その一言に、アルトの肩の力が抜けた。
勇者としてではなく。
仲間としてのアルト・ソレイユ――。
そう在ることを、自分自身で選び取れた気がした。
◇
夕暮れ。
修復作業を終え、皆で校舎の前に腰を下ろす。
空は茜に染まり、風が心地よく吹き抜けた。
「ふぅー! 頑張ったな!」ジークが豪快に伸びをする。
「効率よく動いたからだね!」ミナが胸を張る。
「……まあ、悪くない結果です」カイルは記録簿を閉じながら苦笑した。
アマネがみんなを見回し、笑顔で言う。
「こうしてると、本当に……仲間なんだって思えるね」
誰も否定せず、静かな肯定がそこにあった。
アルトは胸の奥で呟く。
(勇者かどうかなんて関係ない。俺は仲間として――ここにいる)
その決意だけが、戦いの後に残った誇りだった。
そしてそれは、次の試練への一歩へと繋がっていく。
お読みいただきありがとうございます。
いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。




