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静かな日常—復興と再生

学院に静けさが戻ったのは、数日後のことだった。

瓦礫を片づける音、修復魔法の詠唱、木槌が石を打つ響き。

喧騒はあるが、それは戦いのものではなく――“再生”の音だった。

「よし、こっちは片づいたぞ!」

ジークが大きな石を肩に担ぎ上げ、豪快に汗を拭う。

「バランス見て積んでよ! 崩れたらやり直しだから!」

ミナがゴーグルを下げて声を張る。

二人の掛け合いに周囲の下級生たちが笑い、重たい空気が少し軽くなる。

「……まったく。騒がしい現場監督と力仕事担当だな」

カイルが眼鏡を押し上げる。だが記録の手を止めずに、口元をわずかに緩めていた。

少し離れた場所では、アマネが新一年生に石運びを頼みながら笑顔を見せていた。

「ありがとう! 助かるよ」

その声に励まされたのか、小さな子どもたちまで率先して動き出す。

自然と周囲に温かな輪ができていった。

アルトはその光景を横目に、胸の奥が不意に熱を帯びるのを感じた。

(……まただ。どうして、こんなに)

一瞬心臓が跳ねる。慌てて首を振り、作業に戻った。

「アルト様」

声をかけてきたのはリュシアだった。庵での経験が影響してか、その表情は以前より柔らかい。

「……今、何を考えていましたか?」

「俺は……」アルトは迷い、けれど正直に答えた。

「みんなで勝ててよかったって。あの時、一人じゃ絶対に無理だった」

リュシアは小さく頷き、淡く微笑んだ。

「その答えこそ、大切なんだと思います」

その一言に、アルトの肩の力が抜けた。

勇者としてではなく。

仲間としてのアルト・ソレイユ――。

そう在ることを、自分自身で選び取れた気がした。

夕暮れ。

修復作業を終え、皆で校舎の前に腰を下ろす。

空は茜に染まり、風が心地よく吹き抜けた。

「ふぅー! 頑張ったな!」ジークが豪快に伸びをする。

「効率よく動いたからだね!」ミナが胸を張る。

「……まあ、悪くない結果です」カイルは記録簿を閉じながら苦笑した。

アマネがみんなを見回し、笑顔で言う。

「こうしてると、本当に……仲間なんだって思えるね」

誰も否定せず、静かな肯定がそこにあった。

アルトは胸の奥で呟く。

(勇者かどうかなんて関係ない。俺は仲間として――ここにいる)

その決意だけが、戦いの後に残った誇りだった。

そしてそれは、次の試練への一歩へと繋がっていく。


お読みいただきありがとうございます。

いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。


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