戦後の静寂と残る暗雲
崩れた石畳、割れた柱。
学院の広場は瓦礫と焦げ跡に覆われていた。
結界が消えたことで、教師たちと奏の会が駆け込んでくる。
負傷者の手当て、倒壊を防ぐ魔法、残党の影を追い払う光。
その中で、真っ先に目に飛び込んだのは――立ち尽くすアルトの姿だった。
「……アルト殿下だ!」
「勇者殿下が学院を救った!」
歓声が波のように広がり、生徒たちの顔に安堵が戻っていく。
リュシアは目元を拭いながら、小さく呟いた。
「……やっぱり、勇者様……」
恋心ではなく、祈りに似た響きだった。
ジークが豪快に肩を叩き、ミナが「やったじゃん!」と笑い、カイルも黙って頷く。
仲間たちもまた、アルトを讃えていた。
◇
だがその少し離れた瓦礫の影で――アマネはしゃがみこんでいた。
崩れた石片の下、赤黒くひび割れた“核”の残骸。
その中心に、鮮明な刀傷が走っていた。
「……私?」
小さく漏れた声は、誰にも届かない。
「アマネ!」
ミナが呼ぶ声に振り向いたとき、思考は流れていった。
刀を握る手に、まだかすかな震えが残っていることに気づきながら。
◇
夜明けの光が学院に差し込む。
生徒たちは勇者の勝利を祝う。
だが、空の高みにふと――黒い靄がわずかに揺らめいた。
それはすぐに霧散し、誰も気づかない。
ただ一つの暗示だけを残して。
――悪魔の影は、まだ消えてはいない。
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