最終決戦①—紅き瞳の暴走
※軽度の戦闘・流血描写あり(R15想定の範囲)。
燃え落ちた瓦礫の中で、最後の影獣が霧散した。
荒い息を吐きながら剣を構えるアルトとジーク。その背後でカイルの結界が光を保ち、ミナの錬金陣がかすかに煙を上げている。
「……終わったのか?」
ジークが剣先を下ろしかけた、その瞬間――。
地鳴り。
空気がひび割れるように揺れ、黒い靄が一か所に凝縮した。
そこから姿を現したのは――ラインハルト。
だが、その姿はもはや“人”ではなかった。
紅い光を宿した瞳。
血管を走るように影が肌を這い、筋肉は膨張し、骨格さえ歪んでいる。
それでも、顔立ちには確かに彼の面影が残っていた。
「……ライ……ンハルト」
アルトの声が震える。
「アルト、来るぞ!」
ジークが剣を構え直すより早く、紅の瞳が閃いた。
轟音。
一瞬で距離を詰め、黒い爪が振り下ろされる。
アルトが受け止めると同時に、ジークが横から斬り込む。
火花が散り、三人の力が拮抗した。
「カイル!」
「『結界展開』――っ!」
青白い膜が広がり、後衛のミナとリュシアを守る。
「少しでも動きを止める! ミナ!」
「任せて!」
ミナが即席の錬金陣を叩きつけると、床から鎖が伸び、ラインハルトの脚を絡め取った。
だが、異形の筋肉が軋む音と共に、鎖は容易く引きちぎられる。
「まだ戻れる!」
リュシアが声を張り上げた。
「ラインハルトさん! あなたは……本当は人を導くために力を求めたんでしょう! その心を――!」
一瞬。
紅い瞳が揺らぎ、影の中に微かな迷いが見えた。
「……俺は……」
アルトはすかさず踏み込む。
「ラインハルト! 戻れ! お前は――!」
しかし、その声をかき消すように、冷たい囁きが空気を満たした。
――縛れ。
――従わせろ。
紅がさらに濃く燃え上がる。
「俺は導く者だ!」
咆哮が夜を裂いた。
「弱き者を縛り、この国を支配する! それが……選ばれた俺の役目だ!」
暴風のような魔力が炸裂し、アルトとジークが吹き飛ばされる。
カイルの結界がきしみ、ミナの魔法が弾かれる。
「くっ……!」
「まだ、耐えろ!」
全員の体力は限界に近い。
だが、諦めることもできない。
瓦礫と炎の中で、紅い瞳の怪物と六人の少年少女がにらみ合う。
戦況は完全に膠着していた。
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