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先生たちの奮闘

※軽度の戦闘・流血描写あり(R15想定の範囲)。


学院を囲む広場一帯は、すでに戦場と化していた。

夜明け前の薄闇に、黒い魔物たちの咆哮がこだまし、瓦礫と炎が入り交じる。

だが――その最前線に立つのは、生徒ではなかった。

「下がれ、生徒は二列目だ!」

ガロウ教官の怒号が響く。

巨躯を揺らし、盾と剣で影狼の群れを押し返す。

突撃してくる影猿を、力任せに地面へ叩き伏せると、土煙が舞い上がった。

「くそっ、数が減らねぇな……!」

その背に額をぶつけそうになりながら、駆け寄った生徒を片手で突き飛ばす。

「生き延びたいなら下がってろ! こっから先は俺の役目だ!」

一方、反対側の回廊。

「君、怪我はない?」

中性的な声とともに、カミル助教の細身の剣が閃いた。

迫る影蛇の頭部が、まるで糸を断たれたように滑らかに落ちる。

「……ふう。一本一本は大したことないけど、群れると厄介だね」

肩越しに振り返ると、震える下級生に微笑みかけた。

「大丈夫。僕がいる限り、君は無事だから」

その言葉に、生徒は小さく息を呑み、頷くしかなかった。

「はぁい、こっちよ〜!」

甲高い声とともに、イレーネ助教が長い脚を翻す。

腰をひねる仕草ひとつで、影狼の目が釘付けになる。

次の瞬間、幻惑の魔法陣が花のように咲き、魔物たちの動きを一瞬止めた。

「男子が照れてる間に、ちゃんと逃げるのよ!」

あっけにとられた数人の生徒を引き寄せて、非常口へ誘導する。

「……やれやれ、魔物相手にまで通じるなんてね」

自嘲するように笑みを浮かべるが、その眼差しは真剣そのものだった。

保健室前。

「こっちに運んで!」

セラフィーナが両手をかざすと、治癒の光が負傷者の体を包む。

裂傷が閉じ、折れた腕が形を取り戻すたび、生徒たちの顔に安堵が戻る。

「もう大丈夫……あなたたちなら、まだ戦えるわ」

柔らかな声が士気を繋ぎ止める。

だがその額にも、冷や汗がにじんでいた。

治癒魔法を続けるには、彼女自身の魔力も限界に近づいていたからだ。

そして学院の最奥。

石畳の上に立つエジル学園長が、老いた身に鞭を打つように両腕を掲げる。

「――『聖域結界』!」

轟音とともに光の壁が立ち上がり、学院の主要施設を覆った。

影竜の瘴気が吹き荒れるが、結界の表層で霧散していく。

「……これで外周は持つ。だが、中心は……」

エジルの額から汗が滴り落ちる。

彼もまた、分かっていた。

結界の内側。

ラインハルトが張った黒い障壁のせいで、最も危険な戦場には踏み込めない。

「皮肉なことだな」

老教師は苦い声で呟いた。

「奴が張った結界のおかげで、外からの魔物の流入は防げている……だが――内に囚われたあの子らは、完全に孤立している」

背後で、イレーネが苛立ったように唇を噛む。

「……結局、私たちにできるのは、ここを守ることだけ。あの子たちを信じるしかないってわけね」

「そうだ」

エジルは瞳を細めた。

「子どもたちの戦いを、我々が継ぐ時代が来ぬように……今は、守り切るのだ」

結界の外。

教師たちの奮闘で学院は一部の損壊に留まっていた。

だが同時に――

結界の内で、六人の若者たちが命を懸けた戦いを続けていることを、誰一人忘れてはいなかった。


お読みいただきありがとうございます。

いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。


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