魔物との総力戦
※軽度の戦闘・流血描写あり(R15想定の範囲)。
影に覆われた学院の中庭は、夜のような闇に沈んでいた。
結界の外では教師や生徒たちが駆け寄ってきたが、黒い膜に阻まれ、中へ踏み込むことができない。
「アルト様!」「アマネ!」
クラリスやユリウスの声が響く。だが、その必死な叫びは届くだけで、援護にはならなかった。
結界の内側――六人だけが取り残されていた。
アルト、アマネ、リュシア、カイル、ジーク、ミナ。
彼らを取り囲むように、影の獣たちが姿を現す。
「っ……!」
最初に飛び出してきたのは、群れをなす影狼。赤い眼をぎらつかせ、低い唸り声を響かせて突進してくる。
「俺が受ける!」
ジークが剣を抜き放ち、正面で衝撃を受け止めた。火花が散り、影狼の牙を力ずくで押し返す。
その背後に、長大な影蛇がうねりながら迫る。
「させない!」
アマネが刀を振るい、黒い鱗を裂いた。蛇の動きが一瞬止まる。
「今だ! 閃光瓶!」
ミナが声を上げ、調合した瓶を投げ込む。白光が弾け、群がる影狼が目を潰されたように怯んだ。
「右に回り込め!」
カイルが素早く指示を飛ばす。結界の光壁を展開し、仲間の背を守りながら的確に戦場を制御していた。
だが、次の瞬間――空から瘴気が降り注ぐ。
巨大な影竜が翼を広げ、中庭全体を覆い尽くしていた。吐き出された黒い息が石畳を溶かし、肺を焼く。
「くっ……!」リュシアが祈りの術式を展開し、淡い光で瘴気を中和する。
それでも彼女の顔は蒼白で、額に冷や汗が伝っていた。
「ラインハルト!」
アルトが叫ぶ。
影の中心に立つ少年。その瞳は紅に染まり、冷たく光を放っていた。
「お前は勇者じゃない……」
低い声が響く。
「俺は導く者だ。この影すら……俺が支配する」
「違う!」アルトは剣を握りしめる。
「お前は導く者なんかじゃない! 俺たちの……仲間だ!」
その言葉に、ラインハルトの瞳が一瞬だけ揺れた。
だが次の瞬間、影猿の群れが木の上から飛び降り、六人を引き裂かんと襲いかかる。
「来るぞ!」ジークが剣を振り回し、ミナが閃光瓶をもう一つ投げつける。
仲間たちの連携が必死に続く。
アルトは再び声を張り上げた。
「戻れ、ラインハルト! お前はまだ――!」
その必死の叫びは届きかけていた。
だが、影の囁きが再び強く響き、ラインハルトの口元には冷たい笑みが浮かんだ。
魔物たちはなおも増え続け、戦場はさらに混沌へと沈んでいく。
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