進級の式—不穏の影
学院講堂に、荘厳な鐘の音が響いた。
石造りの天井には陽光が差し込み、色ガラスを透過した光が虹のように床を照らす。整然と並ぶ生徒たちの制服は、新しい学年の始まりを告げる晴れやかな光景を作り出していた。
壇上に立つ学園長エジル・カーネルが、ゆっくりと開会の辞を述べる。
「――皆、よく学び、よく鍛え、この一年を乗り越えた。ここからが真の成長の時だ。己を鍛え、友を支え、そして――国を背負う者として歩みを進めなさい」
拍手が湧き上がる。だが、その拍手は均一ではなかった。
特定の一団から、ひときわ揃った大きな音が鳴り響く。
「ラインハルト様!」
「学院の誇りだ!」
ざわり、と場の空気が揺れた。
整列していた生徒たちの一部――ラインハルトの周囲に集う者たちが、異様な統率で歓声を上げる。
壇上の教師たちの表情が、ほんの僅かに陰を帯びる。
エジルは眼鏡の奥で瞳を細め、しかし声色は変えない。
「……静粛に」
その一言で場は収まったが、冷たい余韻は消えないままだった。
◇
アマネは列の中で両手を握りしめる。
(……やっぱり、普通じゃない)
隣のアルトは顔を正面に向けたまま、僅かに唇を噛んでいた。
リュシアは胸元で祈るように指を組み、カイルは険しい視線を横に走らせる。
ミナとジークもまた、どこか落ち着かない様子で視線を交わした。
(みんな……同じことを感じてるんだ)
◇
進級証が読み上げられ、王族や貴族の名が順に呼ばれていく。
アルトの名には確かな拍手が贈られた。
だが、そのすぐ後に呼ばれたラインハルトの名には、まるで合図をしたかのような大喝采が轟く。
「……っ」
アマネは胸の奥にざらついた違和感を覚えた。
◇
式の終わり、エジルが閉会の辞を述べる。
「新たな学年を迎え、皆の前途に光があらんことを――」
荘厳な響きが講堂を満たす。
だがその中で、アマネは視線を感じた。
冷たく、縛るような眼差し。
壇下、ラインハルトの瞳が紅のきらめきを宿し、真っ直ぐに彼女たちを射抜いていた。
(……この学年が、嵐になる)
胸の奥で、小さな声が呟いた。
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