幕間:庵の正月
※本話の酒描写は儀礼的に少量・演出上の表現です。
新年の朝、庵の周りは静かな雪景色に包まれていた。
しんとした空気の中、囲炉裏の火がぱちぱちと弾ける音だけが響く。
ルシアンさんが小さな盃を並べ、柔らかい笑みを浮かべた。
「さあ。今年も健やかに過ごせるように――祝い酒だ。少し薬草を加えてあるから、体にもいい」
アサヒさんは慣れた様子で受け取り、くいと口をつける。
「ふふ、飲みやすいですね」
アマネは盃を受け取って、両手で抱えるように持った。
「えっ……私もですか? そ、少しだけなら……」
口に含んだ瞬間、顔がかっと熱を帯び、慌てて咳き込む。
「~~っ、か、からい……!」
その様子にルシアンさんが声を立てて笑い、アサヒさんも苦笑を浮かべた。
一方で、机の上の鏡餅を見つけたカグヤが――そろそろ、と前足を伸ばし、ちょい、とかじる。
もぐもぐ……。
「カグヤ! それは食べ物じゃありません!」
アサヒさんが慌てて取り上げると、カグヤはぺたんと座り込み、しょんぼりと耳を垂らした。
「……食べたかったんだね」アマネはそっと撫でて、小さなお団子を差し出した。
尾がぱたぱたと揺れ、カグヤは嬉しそうにそれをくわえた。
やがて精霊が窓の外に舞い出し、雪の粒を拾い集める。
その手から、光の結晶がふわりと生まれ、宙に舞った。
白銀の空に星屑のようなきらめきが広がり、庵の庭が幻想的な光に包まれる。
「……わぁ」
アマネは両手を胸の前で合わせ、子供のように見上げていた。
囲炉裏を囲んで温かい汁物を食べながら、ルシアンさんが静かに口を開いた。
「今年も――守るべきものを、守ろう」
アサヒさんが頷き、アマネも真剣な眼差しで答えた。
「はい……!」
カグヤは尾をふわりと揺らし、精霊は光を小さく弾けさせる。
庵に流れるその静かな誓いは、雪明かりよりも確かに温かかった。
お読みいただきありがとうございます。
いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。




