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適性測定③ ―剣の火花

石畳の広場に木剣の音が響く。

最後の試験は剣術。体の動きと、心の芯を測る場だ。

「並べ! 姿勢を正せ!」

号令をかけるのは、日焼けした巨体の教官――ガロウ。

庶民出の騎士団上がりらしく、言葉は荒いが眼差しは真剣だ。

隣には細身で中性的な助教カミル。無言で生徒たちの足さばきを観察している。

さらにその向こう、宰相派の騎士教官バルドが口の端を吊り上げた。

「力ある者だけが生き残る。簡単な話だ」


最初に前に出たのは、赤髪のジーク。

「よろしくお願いします!」と声を張り、木剣を構える。

踏み込み――豪快な一撃が響いた。

相手の木剣が弾かれ、観衆から小さな歓声が上がる。

「いいぞ! 正統派の剣だ!」ガロウが豪快に笑った。

「力強さは本物。ただし粗い」カミルは冷静に記録する。

ジークは頭をかきながら笑った。

「まだまだ鍛えます!」


次はアルト。

背筋を伸ばし、剣を構える姿は絵のように整っている。

踏み込み、切り返し、受け流し――どれも美しい。

だが、どこか硬い。力が流れず、型に縛られた動き。

「形は完璧……だが、気持ちが固いな」ガロウが唸る。

「勇者の剣、という役を演じているように見える」カミルが短く言った。

アルトは苦笑いを浮かべ、額の汗を拭った。


「下がれ。次は――アマネ!」

名を呼ばれて、私は木剣を握りしめる。

剣を持つ手は震えた。ジークの豪快さ、アルトの完成度。比べれば私なんて。

でも、足を動かす。腰を落とす。庵で薪を割ったときと同じように。

「……っ!」

ジークの打ち込みを受けると、腕がしびれる。でも、足は崩れなかった。

再び打ち込まれても――踏ん張る。

「へえ……!」ジークが驚いたように笑った。

「折れないな、アマネ!」

「力はない。だが崩れぬ。これは武器になる」

ガロウが満足げに頷いた。

私は胸の奥で小さな炎を感じた。負けてばかりじゃない。ここに、私の芯がある。


次に前へ出たのは、黒髪を撫でつけたラインハルト。

一歩踏み出し、木剣を振るう。

轟音。受けた相手の木剣は宙を舞い、床に叩きつけられた。

「どうだ! これが力だ!」

バルドが即座に手を叩く。

「見事だ! 強者の証だ!」

だがカミルは首を振った。

「制御できぬ剣は、戦場では味方をも斬る」

イレーネなら笑い飛ばしたかもしれない。だがここでは、静かな批評がラインハルトの耳に突き刺さった。

ラインハルトは不快げに眉をひそめる。


最後に、模擬戦。

「アマネとジーク、軽く打ち合ってみろ!」

ガロウの声に押され、私は構える。ジークは笑って木剣を上げた。

「手加減はするな!」

打ち込まれる一撃。腕が震える。でも、また崩れない。

続けざまの二撃目。足が石畳を擦る。必死に耐える。

「すげえ……」ジークの目に驚きが走った。

「ほんとに崩せねぇ!」

木剣の火花が散る。

私は気づいた――力じゃない。速さでもない。

ただ「折れない」という芯が、ここにある。


すべての試験が終わり、札を受け取る。 「総合:C+」「備考:魔力制御の安定、剣術の粘り強さに特筆」

小さな文字。でも、胸の奥では確かな灯火。

魔力も、剣の火花も、まだ小さい。 けれど、この光は消えない。


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