学園祭の準備—奏でる力
中庭に机や布地が並べられ、生徒たちが慌ただしく動き回っていた。
数日後に迫った学園祭。その準備で学園は活気に包まれている。
「テントの骨組み、任せろ!」
ダリオが大声を上げ、鉄の棒を軽々と担ぐ。
ジークと息を合わせて打ち込む姿に、周囲から歓声が上がった。
「二人とも、力仕事は完璧ね。じゃあ次は――値札と帳簿を整えましょう」
セリーヌが手際よく帳簿を広げ、品物を整理していく。
彼女の横顔は生き生きとしていて、庶民出身の生徒たちから「頼れるお姉さん」と声が上がった。
「値段設定は……ここは庶民生徒でも買える額に調整しよう。差額は寄付金で補えるはずだ」
トーマが即座に案を出す。
「さすが平民主席!」と周りが感心し、彼は少し照れながらも鼻を高くした。
アマネは布を手に、リュシアやミナと看板の飾りつけ。
「ここ、花を添えたらきっと華やかになるね!」
「……本当に、発想が柔らかいわね」リュシアが微笑む。
クラリスはその様子を少し離れた場所で眺め、満足げに小さく頷いた。
「――これが“奏の会”の力。皆、それぞれの音色を響かせている」
その言葉にユリウスが苦笑する。
「相変わらず、比喩が大げさだな。けど……悪くない」
内心で彼は認めていた。庶民も貴族も関係なく、互いの力を出し合える場――それをアマネが自然に中心で引き寄せている。
夕暮れ時。
準備が一段落すると、皆で机を囲んで飲み物を分け合った。
「なあ、学園祭って結局、何が一番楽しみなんだ?」ダリオが豪快に笑う。
「舞踏会でしょう」セリーヌが当然のように答える。
「でも僕は屋台の売り上げだな!」とトーマ。
アマネは笑って、カップを掲げた。
「みんなで作るのが楽しいよね!」
――小さな言葉。けれどその場にいた全員が、不思議と心を温められた。
(やっぱり、この子を中心にして正解だわ)
クラリスは胸の奥で強くそう確信していた。
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