表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/471

適性測定② ―魔力の柱

次の試験場は、真鍮の装置が並ぶ広間だった。

机の上には円盤のような盤が置かれ、その中心に光の針が眠っている。

「魔力制御の測定です。力を注ぎ、制御できた度合いを見ます」

艶やかな赤髪を揺らしながら説明するのは、助教のイレーネ。挑発的な笑みを浮かべ、生徒たちを品定めするように眺めている。

その後ろでは、宰相派の教授ヘルマンが冷ややかに腕を組んでいた。

記録台に控えるのは保健医セラフィーナ。白衣のようなローブを纏い、柔らかな眼差しで生徒の体調を見守っている。


最初の順番は私だった。

深呼吸して、掌を盤に重ねる。

(湯気のように、少しずつ……)

庵で教わった通りに、力を吐き出す。

針がじわりと上がり、そこから揺れもせず静止した。

「……弱いけれど、安定しているわね」

イレーネが頬杖をついて呟く。

セラフィーナがそっと近づき、私の肩に手を置いた。

「安定は、強さのひとつ。決して侮らないことですよ」

その一言が胸に沁みて、私は小さく頷いた。


次は、銀髪の少年。丸眼鏡の奥で真剣に盤を睨み、指先を震わせることなく力を流す。

針が細かく刻むように動き、正確な幅で安定して止まった。

「……すごい。誤差がほとんどない」

記録係が目を丸くする。

「計算式で制御しているのかしら」イレーネが目を輝かせた。

「理論に忠実すぎる。だが、悪くはない」ヘルマンは冷たく言う。

少年は眼鏡を押し上げ、答える。

「僕の名はカイル・フォン・アウグスティヌス。魔力は論理で扱うものです」

さらりとした口ぶりに、ミナが「灰色メガネくん、やるじゃん」と囁いた。


三人目。

白金の髪の少女が、静かに盤へ手を添える。

光があふれた。

盤の針は一瞬で振り切れ、広間全体が白く照らされる。

生徒たちは思わず目を細め、講師たちすら立ち上がった。

「……これは、完全な“聖女適性”」

セラフィーナが記録に手を止め、息を呑む。

リュシアは困ったように微笑むだけ。嬉しいのかどうか、その瞳からは読み取れない。

まるで「笑うように教えられた人形」の顔だった。


次に進み出たのは、黒髪を撫でつけたラインハルト。

盤に手を置いた瞬間――針が跳ね上がり、盤の縁が震えた。

「ははっ、見ろ! これが本物の力だ!」

魔力の奔流が制御を振り切り、周囲の生徒が思わず後ずさる。

監督の補助魔導具が警告音を鳴らした。

「おやおや、見事だ。まさに勇者に匹敵する力だな」

ヘルマンが手を叩き、わざとらしく褒めそやす。

だが、イレーネはにやりと口角を上げた。

「確かにすごいわ。でも、不安定な力は事故のもとよ。恋愛も魔力も、暴走する男は一番嫌われるの」

生徒たちがくすっと笑う。ラインハルトの眉がぴくりと震えた。


記録を終えると、広間の空気はざわめきに満ちていた。

強大な力。精密な制御。圧倒的な聖女の光。

その中で、私の結果は――小さいけれど揺れない安定。

(……それでもいい。これが、私の強さだから)

セラフィーナが小声で囁く。

「忘れないで。光は大きさよりも、消えないことの方が大切なのです」

その言葉を胸に、私は次の試験場へと歩みを進めた。


更新は不定期・毎日目標。面白かったらブクマ&感想をぜひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ