適性測定② ―魔力の柱
次の試験場は、真鍮の装置が並ぶ広間だった。
机の上には円盤のような盤が置かれ、その中心に光の針が眠っている。
「魔力制御の測定です。力を注ぎ、制御できた度合いを見ます」
艶やかな赤髪を揺らしながら説明するのは、助教のイレーネ。挑発的な笑みを浮かべ、生徒たちを品定めするように眺めている。
その後ろでは、宰相派の教授ヘルマンが冷ややかに腕を組んでいた。
記録台に控えるのは保健医セラフィーナ。白衣のようなローブを纏い、柔らかな眼差しで生徒の体調を見守っている。
最初の順番は私だった。
深呼吸して、掌を盤に重ねる。
(湯気のように、少しずつ……)
庵で教わった通りに、力を吐き出す。
針がじわりと上がり、そこから揺れもせず静止した。
「……弱いけれど、安定しているわね」
イレーネが頬杖をついて呟く。
セラフィーナがそっと近づき、私の肩に手を置いた。
「安定は、強さのひとつ。決して侮らないことですよ」
その一言が胸に沁みて、私は小さく頷いた。
次は、銀髪の少年。丸眼鏡の奥で真剣に盤を睨み、指先を震わせることなく力を流す。
針が細かく刻むように動き、正確な幅で安定して止まった。
「……すごい。誤差がほとんどない」
記録係が目を丸くする。
「計算式で制御しているのかしら」イレーネが目を輝かせた。
「理論に忠実すぎる。だが、悪くはない」ヘルマンは冷たく言う。
少年は眼鏡を押し上げ、答える。
「僕の名はカイル・フォン・アウグスティヌス。魔力は論理で扱うものです」
さらりとした口ぶりに、ミナが「灰色メガネくん、やるじゃん」と囁いた。
三人目。
白金の髪の少女が、静かに盤へ手を添える。
光があふれた。
盤の針は一瞬で振り切れ、広間全体が白く照らされる。
生徒たちは思わず目を細め、講師たちすら立ち上がった。
「……これは、完全な“聖女適性”」
セラフィーナが記録に手を止め、息を呑む。
リュシアは困ったように微笑むだけ。嬉しいのかどうか、その瞳からは読み取れない。
まるで「笑うように教えられた人形」の顔だった。
次に進み出たのは、黒髪を撫でつけたラインハルト。
盤に手を置いた瞬間――針が跳ね上がり、盤の縁が震えた。
「ははっ、見ろ! これが本物の力だ!」
魔力の奔流が制御を振り切り、周囲の生徒が思わず後ずさる。
監督の補助魔導具が警告音を鳴らした。
「おやおや、見事だ。まさに勇者に匹敵する力だな」
ヘルマンが手を叩き、わざとらしく褒めそやす。
だが、イレーネはにやりと口角を上げた。
「確かにすごいわ。でも、不安定な力は事故のもとよ。恋愛も魔力も、暴走する男は一番嫌われるの」
生徒たちがくすっと笑う。ラインハルトの眉がぴくりと震えた。
記録を終えると、広間の空気はざわめきに満ちていた。
強大な力。精密な制御。圧倒的な聖女の光。
その中で、私の結果は――小さいけれど揺れない安定。
(……それでもいい。これが、私の強さだから)
セラフィーナが小声で囁く。
「忘れないで。光は大きさよりも、消えないことの方が大切なのです」
その言葉を胸に、私は次の試験場へと歩みを進めた。
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