リュシアの変化—女子会は突然に
夕暮れの鐘が鳴り終えるころ、女子寮・アマネの部屋に柔らかな灯りがともった。
窓辺にかけられた薄布が風に揺れ、甘い香りが漂う。
「はいっ! 今夜は――女子会だ!」
両手を腰に当てて宣言したのはミナだった。
「じょ、女子会……?」
アマネが目を丸くする。
「そう! いろいろあったし! だから今夜は夜更かしして楽しむ! ほら二人とも、さっさとパジャマ!」
言うが早いか、ミナは制服を脱ぎ捨て、迷いなく下着姿になった。
黒地に赤の差し色――攻めたデザインに、アマネは反射的に顔をそむける。
「ミ、ミナ!? ちょっと、早すぎない!?」
「なに恥ずかしがってんの、女同士だし! ほらリュシアも!」
促されたリュシアは、一瞬ためらったのち、静かにリボンを解いた。
淡い水色のレースがちらり。上品で清楚、それでいて凛とした気配がある。
「……下着は、“伴侶に相応しいもの”をと選ばれてきました。だから普通かと」
「伴侶!?」
アマネとミナが同時に叫ぶ。
リュシアは首を傾げるだけで、本気で意味が分かっていない様子。
その天然さに、逆に二人が赤面した。
「リュシア……真顔でそういうこと言うの、ずるいから!」
「わ、私なんて……ただの生成りの……」
おずおずと上着を脱いだアマネの下着は、純白の布に小さな刺繍。
地味、けれど清楚で、逆に一番色っぽい。
「おおー! 意外と色気あるじゃん!」
「な、なんでそうなるの!?」
アマネが耳まで真っ赤になる。
◇
一息ついたところで、ミナがタオルを肩にかけながら言い出した。
「ねえ、下着ってどうしてる?」
「ど、どうしてるって……普通のを」アマネが俯きながら答える。
「私は……決められたものを着てきました。似合うかより、“整って見えるもの”を」リュシアは真剣に答えた。
「うわ、それ味気ないね」ミナが口を尖らせる。「下着くらい、自分が好きなの選んだっていいじゃん!」
「……そうですね」リュシアがふっと微笑んだ。「今度、“私が着たいもの”を選んでみたいです」
「決まり! 今度みんなで買いに行こう!」
「わ、私も!?」アマネが慌てる。
「もちろん! 絶対似合うから!」ミナは容赦なく畳みかけた。
◇
やがてベッドに腰を並べ、話題は自然と恋バナへ。
髪を解いたミナが、悪戯っぽく問いかける。
「でさ。好きな人、いる?」
「す、好きな人!?」アマネは即座に固まった。
「そ、そんなの、考えたことも……」
「えー? この歳なら一人くらい気になる奴いるでしょ!」
「……分かりません。でも、“どうしたいか”って聞かれると……まだ」
言葉を詰まらせるアマネ。
リュシアがゆっくり口を開く。
「私は、勇者の伴侶になるべきだと思っていました。……でも今は違うかもしれません」
その瞳には、前よりも確かな芯があった。
「伴侶だから、ではなく。“誰かを支えたい”――今はその気持ちのほうが近いです」
アマネは思わず見つめる。その言葉は、自分にも重なって聞こえた。
「私はもう決まってるけどね」ミナが胸を張る。「ジークだよ。単純で突っ走るし、一緒にいたら効率よく進めそうなんだもん」
「効率……そこ?」アマネが呆れ混じりに笑う。
「そこだよ!」ミナは真顔で言い切った。
リュシアは小さく笑った。「……好きって、いろんな形があるんですね」
「そうそう! だからリュシアもこれから考えなきゃ損だって!」
三人は顔を見合わせ、声をひそめて笑い合った。
◇
夜更け。ベッドを三つ並べ、川の字になって横になる。
髪を解いたまま、灯りを落とす前の、ほのかな沈黙。
「……こんな夜も、悪くないですね」リュシアがぽつりと。
「うん。なんか、夢みたい」アマネが微笑む。
「よし、明日もやろうぜ!」ミナが両手を広げると、自然に二人の肩に触れた。
そのまま三人は笑みを残して、まぶたを閉じる。
湯気も灯りも消えた部屋に、少女たちの静かな呼吸だけが重なっていった。
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