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ひとつ屋根の晩餐

昼下がりの陽光が石畳を照らし、学園の中庭に金色の影を落としていた。

その門をくぐり、ひときわ整った姿で現れたのは――リュシアだった。

「……ただいま、戻りました」

薄桃の外套を脱ぎ、軽く礼を取る。その声は以前よりも柔らかく、瞳には澄んだ光が宿っている。

出迎えた仲間たちは一瞬ぽかんとしたあと、真っ先に口を開いたのはミナだ。

「リュシア、おかえり! なんか雰囲気変わったね?」

「え……そうでしょうか」

頬をほんのり赤らめるリュシア。その姿に、アルトも小さな驚きを覚えていた。庵で過ごした数日が、確かに彼女の芯を強くしている。

アマネがぱっと笑顔になって駆け寄り、手を取った。

「無事でよかった! 王妃様のお手伝いなんて大変だったでしょ?」

「はい。でも……学ぶことも多くて」

一瞬、リュシアの視線が揺れる。けれどその奥には、前よりも凛とした強さが見えていた。

「ねえ!」ミナがぱんと手を叩く。

「今夜は皆でご飯作ろうよ! 寮の食堂じゃなくてさ。リュシアのおかえり会!」

「いいな、それ!」ジークがにやりと笑う。「肉だ、肉を焼こうぜ」

「消費バランスを考えろ」カイルが眉をひそめる。「野菜も必要だ」

「効率は正義!」ミナが胸を張る。

「お前、その台詞便利に使いすぎだ」ジークが呆れたように返した。

こうして調理室を借り、夕暮れまでに料理の準備を始めることになった。

包丁の音、鍋の湯気、笑い声。調理室はあっという間に熱気と香りに包まれる。

「アルト、こっちお願い!」ミナが手際よく指示を飛ばす。

「俺が?」と首を傾げながらも、アルトは器用に野菜を切り始める。

「へえ、殿下のわりに手つき悪くないじゃねぇか」ジークが茶化す。

「料理は剣術と似てるよ。刃をまっすぐ落とすところなんて」アルトが真顔で返し、皆が吹き出す。

リュシアはおずおずと人参を手に取り、緊張した面持ちで切り分ける。

「……こうでしょうか」

「うん、すごくきれい!」アマネが隣から覗き込み、ぱっと笑う。

「リュシアも、ちゃんと料理人の顔してるよ」

「そ、そうですか……?」

赤くなった頬に、庵で見た柔らかさがにじんでいる。

ジークは大皿いっぱいの肉を豪快に焼き上げ、カイルは几帳面に分量を量りながらスープを調える。ミナは調味料の瓶を振り回して「効率は正義」とぶつぶつ唱えつつ、実は味付けのセンスが抜群だった。

「やれやれ……」カイルは小声でつぶやきながらも、鍋をかき混ぜる手はどこか楽しそうだった。

やがて机いっぱいに料理が並んだ。

香ばしい肉の煮込み、彩り豊かなサラダ、温め直した黒パン、果物の盛り合わせ。

「いただきます!」

声が重なり、食卓が笑い声で満たされていく。

「この肉、最高だな!」ジークが豪快に頬張る。

「味付けが良いんだよ。私の効率的調合の成果!」ミナが鼻を鳴らす。

「ただの勘じゃないのか?」カイルが冷静に突っ込むと、また皆が笑った。

リュシアは小さく笑いながら、ゆっくりと食べている。その表情は以前よりもずっと穏やかだ。

向かいに座るアマネが、くしゃっと笑って皿を差し出した。

「アルト様も、いっぱい食べてね」

「……ああ、ありがとう」

胸が、不意に跳ねる。勇者としての重圧ではなく、一人の仲間として差し出された皿。その温かさが、剣よりも深く刻まれていく。

食後も団欒は続いた。

ジークが戦闘中の武勇を大げさに語れば、ミナが「効率的じゃない!」と突っ込み、カイルは「理論上は可能」と余計な補足を入れる。

リュシアはそのやり取りに笑い、アマネは肩を揺らして一緒に笑った。

「……これが、“仲間と並ぶ”ってことなんだな」

アルトは湯気の立つスープを見下ろし、心の奥で小さく呟いた。

夜になっても、笑い声は絶えなかった。

食卓を囲んで過ごした時間は、戦いの影をほんのひととき遠ざけ、彼らの胸に小さな灯を残した。

その灯は、きっと次の困難を照らす力になる――そう思えた。


お読みいただきありがとうございます。

いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。


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