ひとつ屋根の晩餐
昼下がりの陽光が石畳を照らし、学園の中庭に金色の影を落としていた。
その門をくぐり、ひときわ整った姿で現れたのは――リュシアだった。
「……ただいま、戻りました」
薄桃の外套を脱ぎ、軽く礼を取る。その声は以前よりも柔らかく、瞳には澄んだ光が宿っている。
出迎えた仲間たちは一瞬ぽかんとしたあと、真っ先に口を開いたのはミナだ。
「リュシア、おかえり! なんか雰囲気変わったね?」
「え……そうでしょうか」
頬をほんのり赤らめるリュシア。その姿に、アルトも小さな驚きを覚えていた。庵で過ごした数日が、確かに彼女の芯を強くしている。
アマネがぱっと笑顔になって駆け寄り、手を取った。
「無事でよかった! 王妃様のお手伝いなんて大変だったでしょ?」
「はい。でも……学ぶことも多くて」
一瞬、リュシアの視線が揺れる。けれどその奥には、前よりも凛とした強さが見えていた。
◇
「ねえ!」ミナがぱんと手を叩く。
「今夜は皆でご飯作ろうよ! 寮の食堂じゃなくてさ。リュシアのおかえり会!」
「いいな、それ!」ジークがにやりと笑う。「肉だ、肉を焼こうぜ」
「消費バランスを考えろ」カイルが眉をひそめる。「野菜も必要だ」
「効率は正義!」ミナが胸を張る。
「お前、その台詞便利に使いすぎだ」ジークが呆れたように返した。
こうして調理室を借り、夕暮れまでに料理の準備を始めることになった。
◇
包丁の音、鍋の湯気、笑い声。調理室はあっという間に熱気と香りに包まれる。
「アルト、こっちお願い!」ミナが手際よく指示を飛ばす。
「俺が?」と首を傾げながらも、アルトは器用に野菜を切り始める。
「へえ、殿下のわりに手つき悪くないじゃねぇか」ジークが茶化す。
「料理は剣術と似てるよ。刃をまっすぐ落とすところなんて」アルトが真顔で返し、皆が吹き出す。
リュシアはおずおずと人参を手に取り、緊張した面持ちで切り分ける。
「……こうでしょうか」
「うん、すごくきれい!」アマネが隣から覗き込み、ぱっと笑う。
「リュシアも、ちゃんと料理人の顔してるよ」
「そ、そうですか……?」
赤くなった頬に、庵で見た柔らかさがにじんでいる。
ジークは大皿いっぱいの肉を豪快に焼き上げ、カイルは几帳面に分量を量りながらスープを調える。ミナは調味料の瓶を振り回して「効率は正義」とぶつぶつ唱えつつ、実は味付けのセンスが抜群だった。
「やれやれ……」カイルは小声でつぶやきながらも、鍋をかき混ぜる手はどこか楽しそうだった。
◇
やがて机いっぱいに料理が並んだ。
香ばしい肉の煮込み、彩り豊かなサラダ、温め直した黒パン、果物の盛り合わせ。
「いただきます!」
声が重なり、食卓が笑い声で満たされていく。
「この肉、最高だな!」ジークが豪快に頬張る。
「味付けが良いんだよ。私の効率的調合の成果!」ミナが鼻を鳴らす。
「ただの勘じゃないのか?」カイルが冷静に突っ込むと、また皆が笑った。
リュシアは小さく笑いながら、ゆっくりと食べている。その表情は以前よりもずっと穏やかだ。
向かいに座るアマネが、くしゃっと笑って皿を差し出した。
「アルト様も、いっぱい食べてね」
「……ああ、ありがとう」
胸が、不意に跳ねる。勇者としての重圧ではなく、一人の仲間として差し出された皿。その温かさが、剣よりも深く刻まれていく。
◇
食後も団欒は続いた。
ジークが戦闘中の武勇を大げさに語れば、ミナが「効率的じゃない!」と突っ込み、カイルは「理論上は可能」と余計な補足を入れる。
リュシアはそのやり取りに笑い、アマネは肩を揺らして一緒に笑った。
「……これが、“仲間と並ぶ”ってことなんだな」
アルトは湯気の立つスープを見下ろし、心の奥で小さく呟いた。
◇
夜になっても、笑い声は絶えなかった。
食卓を囲んで過ごした時間は、戦いの影をほんのひととき遠ざけ、彼らの胸に小さな灯を残した。
その灯は、きっと次の困難を照らす力になる――そう思えた。
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