精霊との新たな契約
「レオン王子も、魔王討伐に行くんだろう?」ブリューナが静かに口を開いた。その声音には、長きにわたり多くの戦士を見送ってきた鍛冶師としての確信があった。
続いてファエリアが歩み出て、布で丁寧に包まれた長槍を差し出す。「殿下にふさわしい武器を用意しましたよ。水と大地を貫く槍です」
布が解かれ、露わになったのは蒼き水晶と翠の鉱石を編み込んだ長槍。その刃先は滴るように清らかで、柄は根を張る大樹のように力強い。レオンはしばし言葉を失い、その槍を両手で受け取った。
「……見事だ。これほどの武器を授かる資格が、私にあるのだろうか」
その瞬間――空気が震えた。工房の光が揺らぎ、透き通るような青と、深く温かな緑が重なり合い、二つの巨大な気配が立ち現れる。
◇
「これは……」エリスティアが目を見開いた。外套を押さえながら、声を震わせる。「神樹の精霊が……呼んでいます」
彼女の言葉に応えるように、青と緑の光から二つの姿が現れた。ひとつは流れる水のごとき衣を纏い、王冠を戴いた精霊。もうひとつは大地の岩を鎧とした巨人の精霊。その存在感は工房の天井をも圧するほどだった。
「王子よ」透き通る声が響く。**水の精霊**がレオンを見つめる。「国を潤す流れとなれ」
続いて、轟く声が床を震わせた。**大地の精霊**が槍を通じて言葉を紡ぐ。「根を張り、揺るがぬ礎となれ」
◇
レオンは槍を握り直し、静かに頷いた。「ならば、この命を賭して、必ずや国を守ろう」
だが、そこで大地の精霊が視線を横に向けた。「……いや、一人では足りぬ」
アルトの前に、緑の光が溢れ出す。テラ・ドミヌスの声が再び響いた。「兄弟よ。共に大地を背負え」
「私も……?」アルトが驚きに目を見開く。だがすぐに頷き、胸に手を当てた。「共に支える。それが、王族の務めだ」
その言葉に呼応するように、彼の盾が大地の光を放ち、兄弟二人の間に確かな絆が結ばれた。
「我が名は――テラ・ドミヌス!」二人が声を重ね、名を与えると、大地の精霊は咆哮を上げてその姿を揺らがせた。
◇
そして、レオンが槍を高く掲げた。青き光が一気に溢れ出し、工房の中を水の流れが駆け抜ける。「我が名は――アクア・レグルス!」その宣言に応えるように、水の精霊は清らかな波動を放ち、槍とレオンを包み込んだ。
アマネ、リュシア、エリスティア、仲間たちが見守る中、二人の王子は新たな契約を結び、力を授かった。水と大地、二柱の精霊。その加護は国を背負う双柱の象徴となり、未来への光となる。
「これで――魔王にも怯むことはない」レオンの言葉に、仲間たちは力強く頷いた。工房は新たな決意と精霊の加護に満ち、夜明けを告げる鐘の音が響いた。
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