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新たなる装い

夜明けの工房には、まだ熾火のような熱が残っていた。炉の赤が揺らぎ、溶けた金属の香りと水晶を磨いた清らかな光沢が混ざり合い、まるでひとつの生命の鼓動のように空間を満たしていた。そこに立つのは、ミナ、ブリューナ、ファエリア、そしてセラフィオ。三人と一人の竜人の少女が、目の前に並んだ「新たなる防具」を見つめていた。

胸甲、肩当て、外套、籠手、脛当て――それらはただの武具ではなかった。太陽と月、神樹の加護を宿す布を芯に、金属と水晶の技術が織り込まれた結晶。どれも軽やかで、それでいて確かな存在感を放ち、触れるだけで体の奥から勇気が湧き出すような不思議さがあった。

「……やっと、できたね」ミナが小さく呟くと、ブリューナが腕を組みながら鼻を鳴らした。「できたのは“あんたの力”さ。私らが手を貸したのは、ほんの少しの知恵と経験だけ」ファエリアも穏やかに頷いた。「ええ。完成させたのは、ミナ。あなたの情熱がすべてを動かしたのよ」

「師匠!」セラフィオが感極まってミナに抱きついた。竜の尾がぶんぶんと揺れ、工房の床を叩く。ミナは慌てながらも笑って、その頭を撫でた。「ありがと、セラフィオ。……でも、まだ終わりじゃない。これを、みんなに着てもらって初めて完成なんだよ」

やがて工房の扉が開き、仲間たちが集まってきた。アマネ、リュシア、エリスティア、レオン、アルト、カイル、そしてジーク。彼らの目に飛び込んだのは、きらめく新防具の数々。全員が息を呑み、その場に立ち尽くした。

「……すごい」アマネが思わず声を漏らす。その表情は戦場で見せる鋭さではなく、子供のような純粋な驚きだった。リュシアも瞳を潤ませ、「こんなにも……清らかで、強い気配を纏った装備、初めて見ました」と小さく呟く。エリスティアは唇を震わせ、「これが……あなたたちの技術の結晶なのですね」と深く頭を下げた。

「さあ、着てみて」ミナが一歩前に出て、胸を張った。「これはみんなのために作ったものだから!」

最初に立ち上がったのはアマネだった。胸甲を身につけると、驚くほど軽く、まるで羽衣のように体に馴染んだ。にもかかわらず、見た目以上に堅牢で、全身が守られている安心感があった。「軽い……なのに、全身が包まれているみたい。あったかい……」その言葉に、リュシアも続く。彼女が防具を纏った瞬間、衣は薄布のように揺らぎながらも聖なる光を放ち、祈りそのものが形を成したかのように周囲に輝きを広げた。「まるで……私自身の祈りが姿を得たみたいです」

エリスティアは震える手で外套を羽織った。それはまるで薄布の羽衣のように軽やかに揺らめき、エルフの気高さを一層際立たせる。「これなら……私も、あなたたちと並んで立てる」その声は小さいが、確かな決意がこもっていた。

次は男子たちだ。レオンは静かに鎧を纏い、王子としての威厳がさらに際立った。「……これなら、国と民を守れる。いや、必ず守ってみせる」アルトは肩当てを装着しながら、アマネをまっすぐに見た。「これで、どんな敵からでも君を守れる」アマネは微笑んで「一緒に、ね」と返す。そのやり取りに場が少し温かくなった。

カイルは神官の正装を思わせる衣を纏い、胸元に光を宿す文様が浮かんだ。「祈りと力がひとつに……これなら、本当に背中を任せられる」ジークは最後に胸甲を着け、「おお、やっと俺も肩を並べられるな!」と豪快に笑った。

そして――。仲間たちが一斉に振り返った。「ミナは?」声が重なる。ブリューナが背を押す。「胸を張りな、ミナ。今は技師としてじゃなく、仲間と肩を並べる戦士として」

彼女は工房の中央に立ち、深呼吸して新防具を纏った。まるで舞台に立つように両腕を広げ、にっと笑みを浮かべる。「じゃーん! どう? 私だって本気になればこれくらい出来るんだから!」その自信満々の姿に、目が潤むのを隠しきれず拳をぐっと握った。セラフィオが目を輝かせて声を弾ませる。「師匠、めちゃくちゃ似合ってる! でもやっぱり、まだ仕掛けがあるんでしょう?」ブリューナは肩をすくめて口元を緩め、「ふふ、実戦でのお楽しみ」と意味深に告げた。

仲間たちは一斉に頷いた。アマネが静かに言った。「ミナも、これからの戦いで何をしてくれるのか……楽しみだね」リュシアは微笑み、「ええ。実戦での力を見せてもらえるのを待っています」エリスティアも胸に手を当て、「……あなたなら、きっと私たちを驚かせてくれるはず」と囁いた。

防具を纏った八人が横一列に並ぶ。光が差し込み、彼らの影が床に伸びる。その姿はまるで一枚の絵画のようで、誰もが胸に熱を覚えた。

「これで、魔王に挑める」レオンの言葉が工房に響き渡り、全員の心を震わせた。アマネも小さく笑った。「うん、もう怖くない。だって、みんながいるから」

静かな誇らしさと、燃え立つ決意。その二つが溶け合い、工房は言葉にならない熱気で満ちていった。

夜明けの光は新たなる旅立ちを告げる。彼らの歩む道は険しい。だが今、この瞬間だけは――誰もが未来を信じられた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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