復興の王都
夜を徹して工房で針を進める仲間たちの灯火の外では、王都がゆっくりと息を吹き返していた。
崩れた石垣は積み直され、割れた窓には新しい硝子がはめられ、通りには活気が戻りつつある。
瓦礫の山だった広場では子供たちが走り回り、露店が並び、香ばしい焼き菓子の匂いが漂っていた。
「勇者様が帰ってきてくださったからだ」
「聖女様がまた、私たちを導いてくれる」
噂は街角から街角へと流れ、笑顔が連鎖していく。
人々は英雄たちの存在を希望の灯火として、手を取り合い働いていた。
◇
アマネとリュシアは、警護も付けずにその通りを歩いていた。
といっても、堅苦しい視察ではない。復興の手伝いをする子供に声をかけたり、井戸端で談笑する婦人たちに混ざったり――まるで昔からここに暮らす住人のように、自然に馴染んでいた。
「アマネ様!」「リュシア様!」
道すがら声をかけられ、感謝と敬愛の視線を浴びるたびに、二人は少し困ったように笑みを返す。
ある少年が木材を運ぶ手を止め、真っ直ぐにアマネを見上げた。
「本当に、勇者様や聖女様が戻ってきてくれてよかった。俺たち、もう大丈夫だって思えます」
その言葉に、アマネはそっとしゃがみ、少年と視線を合わせる。
「ねえ、よく覚えておいてほしいの。私たちは、ただ派手なことをしているだけ。国を支えているのは、ここで汗を流しているみんなの力なの。だから――私が特別なら、あなたも特別よ」
少年は目を丸くしたまま固まり、それから小さく頷いた。
その横でリュシアは、別の女性に手を握られ、頬を赤らめている。
「……わ、私はただ……役目を果たしているだけです。けれど……ありがとう」
それでも口元には柔らかな笑みが浮かび、握られた手を決して離さなかった。
◇
夕暮れ、鐘の音が響く。
働き終えた人々が並んで空を見上げ、暮れゆく光の下で肩を寄せ合う。
アマネとリュシアもその輪の中に加わり、胸の奥に温かい確信を抱いた。
――英雄の存在が希望を灯し、民の力が国を築く。
その二つが揃ったとき、どんな闇も打ち払える。
復興の王都は、確かに未来へ歩き出していた。
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