夜明けを紡ぐ工房
工房の扉が閉じられると同時に、熱気と鉄の匂いが広がった。ブリューナが大槌を振るい、ファエリアが水晶を磨き、ミナが設計図を睨みつけながら手を動かす。工房は昼夜の区別を失い、ひたすらに火と光が踊る場所へと変わっていった。
「師匠ー! これ、ここで合ってますか?」
「だから私は師匠じゃないってば!」
竜人の少女セラフィオが、汗を額に浮かべながらミナに金属片を差し出す。翼の先がカタカタ震えており、不安そうな瞳がまっすぐに向けられていた。
ミナは一瞬言葉を詰まらせた。だがすぐに手を伸ばし、彼女の手元を優しく直す。「そう、もう少し角度をつけて……金属はね、こうすると呼吸するんだ」
「なるほど! 金属が……呼吸……!」
セラフィオの顔が輝いた。異文化の感性で捉えられる言葉が、工房の空気を一層鮮やかにする。
◇
夜も更け、ギルド員たちが差し入れを運んでくる。ロイクが大鍋を担ぎ、ユウマとミオがパンやスープを並べ、レナが笑顔で「少しは休んでくださいね」と声をかけた。
「師匠は徹夜続きなんだから休ませて!」
セラフィオが小さな体でミナを庇うように立ちはだかる。その必死さに場が和み、ミナは耳まで赤くして「わ、私はまだ師匠じゃないってば!」と叫ぶ。だが、仲間たちの笑い声に押されるように、彼女の胸の奥に小さな誇りが芽生えていた。
◇
「ミナ、だいぶ教えるのが板についてきたじゃないか」
ブリューナが目を細め、大槌を置いた。ファエリアも頷き、水晶の粒を光にかざす。「あなたはもう、学ぶだけの子じゃないわ。渡す側に立っているのよ」
その言葉に、ミナは一瞬手を止めた。火の粉が舞い、工房を照らす。セラフィオの一生懸命な姿と、師匠たちの温かい眼差し。そのすべてが、彼女の背中を押していた。
「……うん。私も、未来に繋げるんだ。最高の防具を作るために!」
◇
夜明け前。窓の外に薄明が差し込み、工房の灯りと交わる。ブリューナ、ファエリア、ミナ、そしてセラフィオ。四人は火と水晶の輝きに包まれながら並び立ち、完成へと向かう決意を胸に刻む。
「絶対にやり遂げよう!」
工房の空気は熱く、それでいて清々しかった。最強の防具を求める旅路は、確かに次の段階へと進み始めていた。
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