男子サイズ測定
「……は? 俺がやるのか?」
通信機の向こうでジークの声が固まった。ミナは得意げに頷く。「そう! 女子はもう終わったから、次は男子の番! 設計のためだから!」
「設計ってな……。まあいい、任せろ」
ジークは額を押さえながらも了承し、工房に姿を現した。だがその瞳には「俺こそが男の代表」という妙な決意が宿っていた。
◇
「おいおい、本当にやるのか……」
腕を組んだレオンが小さくため息をつく。第一王子らしい落ち着きはあるものの、その背筋はいつも以上に伸びている。
「兄上、諦めましょう」アルトは肩を竦めるが、どこか口角が引き締まっている。「どうせ断ってもミナは引かないですし……だったら堂々と受けましょう」
「その通り!」ミナはメジャーを手ににっこり。リュシアとアマネ、そしてエリスティアまで互いに顔を見合わせて小さく笑っている。その空気は和やかだが、男子三人には「見られている」という緊張感があった。
◇
最初の測定はレオン。王族として常に鍛錬を欠かさぬ体は引き締まり、ジークが「殿下、やっぱりすごい。背筋が岩みたいだ」と感嘆する。レオンは淡々と「仕事に必要だからだ」と返すが、心の内では「少しは見栄えしているだろうか」と考えていた。頬はわずかに赤い。その姿を、指の隙間から顔を覆いながらもエリスティアがちらちらと見てしまい、胸の奥が妙に熱くなるのを感じていた。
次はアルト。ジークが肩幅を測ろうと近づいた瞬間、アルトは一歩も引かずに胸を張った。「堂々と測ってくれ。……ただ、アマネが見ていると思うと余計に気合いが入るな」背後でアマネが「もちろん見てるよ」と柔らかく返すと、アルトの顔は真っ赤に染まりつつも、背筋をさらに力強く伸ばした。
最後はカイル。彼は静かに上着を脱ぎ、淡々と立った。「早く済ませてください」
「お、細いかと思ったけど、結構筋肉あるな」ジークが感心したように口笛を吹く。そのやり取りを、扉の陰からリュシアが思わず熱を帯びた目でじっと追ってしまう。自分でも意識していなかった興味に、胸が高鳴るのを抑えられなかった。カイルは目を逸らし、「余計なことは言わなくていい」と小声で返すが、胸を張る姿はどこか誇らしげで、リュシアの頬も知らず赤らんでいた。
◇
「お前ら、全員いいとこ見せようと必死すぎだろ!」 ジークが豪快に笑い飛ばす。レオンは口元を引き締めながらも頬を赤らめ、アルトは赤面を隠すのに必死、カイルは無言でメジャーから逃げるように距離を取る。背後でミナが「数字はしっかり取ってよ!」と真剣に指示する姿に、男子三人は同時に視線を交わし―― 「……一番楽しんでるの、やっぱりミナだな」 と揃ってぼやいた。
◇
全ての測定が終わり、ミナは両腕を組んで満足げに宣言した。「これで女子も男子もデータは揃った! 最高の防具、必ず作ってみせる!」
ジークは肩をすくめて笑った。「やれやれ、戦いの前にこんな虚栄心試しがあるとはな」
「……で、ジークは?」
アルトがふと問いかける。場が一瞬静まり、皆の視線がジークへと集まった。
ミナはきょとんとした顔をした後、思わず口を滑らせた。「あ、ジークはいいよ。もう知ってるから」
その瞬間、工房の空気が凍りついた。ジークの耳まで真っ赤に染まり、「お、おいミナ! 変な誤解を招くだろ!」と慌てて声を上げる。ミナは両手をぶんぶん振りながら「ち、違う! 一緒に暮らしてたからサイズ感は自然と……!」と必死に言い訳するが、顔は真っ赤。仲間たちは爆笑と赤面の渦に包まれ、工房にはさらに大きな笑い声が響き渡った。
◇
こうして測定は大団円を迎えた。笑いと照れ、そして妙な誇らしさが混じった空気が広がり、仲間たちの絆はまたひとつ深まっていった。
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