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刺さる牙—痛みと祈り

唸り声が重なり、森の闇が牙と爪の群れに変わった。

十を超える影狼が茂みから飛び出し、ジーク班を包囲する。

「こっち来やがったか! いいぜ、まとめて相手してやる!」

ジークが斧を振り抜き、迫る魔物を薙ぎ払う。血飛沫が飛び散り、枝葉を赤く染めた。

「ミナ、仕掛けは!?」

「準備完了! 効率は正義――炸裂!」

小型の筒が爆ぜ、火花と衝撃で二匹の狼が吹き飛ぶ。

「……数が多すぎる!」

カイルが詠唱を終え、光の矢を放った。首を貫かれた狼が悲鳴を上げて倒れる。

だが群れは止まらない。牙が迫り、輪は狭まっていく。

「アマネ!」

ジークの叫びに、アマネが両手を組む。

「ま、まだ大丈夫……!」

掌に光が集まり、仲間を包む膜となって爪を弾いた。

制御は揺らがない。彼女の強さは確かにそこにあった。

――だが。

一匹の狼が横合いから飛びかかり、結界をすり抜けた。

牙が腕に深く食い込み、鮮血が散る。

「――っ!」

焼けるような痛みに、アマネの声が震えた。

「アマネ!」

ジークが斧で狼を叩き斬り、彼女を庇う。

膝をつきながら、アマネは必死に笑おうとした。

「……大丈夫。ちょっと噛まれただけだから……」

指先は震えて魔力が揺れる。それでも必死に結界を維持しようとする姿に、ミナが悲鳴を上げた。

「無理しないで! 血が止まらないよ!」

「……ごめん。でも、まだ……やれるから」

弱さと同時に、揺るがぬ意志を示す声だった。

――その時。

「……癒えよ」

澄んだ祈りが森に響いた。

白い衣を揺らしてリュシアが現れ、後ろにアルトの姿も続く。

「リュシア……!」

アマネが驚いたように目を見開く。

光が彼女の腕を包み、血は収まり、裂けた傷口が閉じていく。

だが痛みは完全には消えなかった。

「これ以上は……私には」リュシアが小さく首を振る。

アマネは浅く息を吐き、笑顔を浮かべた。

「ううん、もう十分。ありがとう、リュシア」

その声は弱っていても、確かに芯のあるものだった。

「影狼は……まだ残っている!」

アルトが剣を構え、前に出る。

「殿下、落ち着け!」ジークが叫ぶ。

だがアルトは聞こえないかのように剣を振るった。

「勇者候補が退くわけにはいかない!」

剣筋は鋭いが、どこか焦りが滲んでいた。

「アルト!」

アマネは痛む腕を押さえながら、必死に叫ぶ。

「ひとりで無理しちゃだめ!」

その声も届かず、アルトは肩を掠められ血を流す。

――仲間たちが必死に食らいつき、やがてジークの斧が最後の狼を叩き伏せた。

森に静寂が戻る。

荒い息を吐く仲間たち。アマネの腕はまだ痛みを残し、アルトの肩からも血が滴っている。

そんな中、リュシアだけが黙して二人を見ていた。

(アルト様が無理をしている……でも、今は止められない。聖女として支えるのが私の役目……)

そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に小さな違和感が芽生えていた。

(本当に……これが正しい支え方なの?)

湯気のように揺らめくその疑念は、まだ誰にも口にできない。


※軽度の流血描写あり(R15想定の範囲)。明日も載せます。

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