若き冒険者たちの挑戦
ブリューナとファエリアが告げたのは、一筋縄ではいかない条件だった。最強の防具を編むには、太陽と月、そして神樹の精霊の力を糸に織り込む必要がある。そのためには「触媒となる光糸」が必要だという。しかし、その糸は力や技では得られない。精霊に心を認められた者にしか授けられないのだ。
「だからこそ、君たちが行くのが相応しい」ブリューナは、若き冒険者たちに視線を向けた。ロイク、レナ、ユウマ、ミオ。四人は一瞬目を見合わせた。
「俺たちが……?」ロイクが眉を上げる。「でも、アマネたちの方が……」
「戦場を潜り抜けてきた彼女たちは、もう別格の存在。精霊が試そうとするのは、もっと素朴で、まっすぐな心なのだよ」ファエリアが穏やかに言った。
「私たちは交信の儀を行います。けれど、糸を受け取るのはあなたたち。精霊は、それを望んでいるはずです」アマネが静かに頷いた。リュシアとエリスティアも微笑み、四人に視線を送った。
◇
四人は森の奥、精霊の小径へと足を踏み入れた。木漏れ日が揺れる道は次第に静寂に包まれ、鳥の声すら消えていく。代わりに、微かな囁きが耳を掠めた。それは幻か、精霊の声か。
「……仲間を見捨てるのか?」ロイクの前に現れた幻影が問いかけた。崩れる橋、取り残された仲間の姿。力を尽くして助けようとするが、重さで腕が震える。汗が滲み、足がすべりそうになる。だが、ロイクは叫んだ。「俺は一人じゃ強くない! 仲間がいるから戦えるんだ! だから絶対、離さない!」
幻影が消えると、彼の胸に温かな光が灯った。
一方レナの前に立ちはだかったのは、大きな剣を持つ影だった。「力こそ全てだ」と告げ、挑発してくる。レナは手を震わせたが、剣を握らず、深く息を吐いた。「力で踏み潰すのは簡単。でも……私は皆と並んで進みたい」そう言って影に背を向けると、光が足元に道を描いた。
◇
ユウマには、庵の村の光景が現れた。燃える家、泣き叫ぶ子どもたち。かつてアマネが守った場所だ。ユウマは必死に駆け寄り、炎の中から子どもを抱き上げた。「俺も……姉ちゃんみたいに、誰かを守れる存在になる!」その叫びと共に、炎は霧散した。
ミオは小さな影に囲まれた。「お前は何もできない」「足手まといだ」──かつて耳にした言葉。胸が苦しくなる。だが、彼女は唇を噛み、前を向いた。「それでも……私は仲間の一員だよ! 一人じゃできなくても、みんなとなら!」涙をこぼしながらも、声は揺るがなかった。その瞬間、影は笑みを浮かべ、光となって彼女を包んだ。
◇
試練を越えた四人が再び合流すると、最奥には三本の光糸が漂っていた。太陽の金糸、月の銀糸、そして神樹の翠糸。手を伸ばすと、糸は指先から逃げるように揺らめき、掴もうとすれば消えてしまう。
「……俺たちじゃ駄目なのか?」ロイクが唇を噛む。
その時、ユウマが拳を握った。「違う! これは、アマネ姉ちゃんたちに届けるための糸なんだ!」
「うん、私たちじゃなく、みんなのために」ミオが頷く。
「そうだな。なら、皆で掴もう」レナが手を差し出す。
四人が心を一つにして光糸へと手を伸ばした瞬間、糸は輝きを増し、実体を帯びた。指先に確かな重みと温もりが宿る。三本の光糸は、彼らの真心に応えたのだ。
◇
帰り道、四人は互いに顔を見合わせ、自然と笑みをこぼしていた。
「これでようやく……俺たちも仲間の力になれたな」ロイクの言葉に、皆が笑顔で頷いた。
そう、彼らの挑戦は小さな一歩かもしれない。だが、その一歩がやがて仲間たちを守る大きな力へと繋がるのだ。最強の防具を求める道は、確かに進み始めていた。
◇
工房に戻ると、アマネ、リュシア、エリスティアが待っていた。四人が光糸を差し出すと、三人は目を見開き、やがて柔らかな笑みを浮かべる。
「よくやったね、みんな」アマネが誇らしげに言う。
「あなたたちの真心が、精霊に届いたのね」リュシアが優しく微笑む。
「……本当に、頼もしい仲間です」エリスティアが静かに告げた。
若き冒険者たちは顔を赤らめながらも、胸を張った。確かに彼らは仲間の一員として、この物語に名を刻んだのだった。
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