姫を囲む夜語り
戦いの労いの宴もひと段落し、城内の空気は少し落ち着きを取り戻していた。その夜、王城の一室では、アマネ、リュシア、ミナ、そしてエリスティアの四人が顔を揃えていた。湯浴みを済ませ、揃って寝間着姿。部屋に灯る柔らかなランプの光が、彼女たちの頬を温かく照らしていた。
「ふふん、やっと女子だけでゆっくりできるね!」
ミナが布団に飛び込みながら声を弾ませた。その無邪気な様子に、アマネもつられて笑う。
「戦場から一転、こうして語り合えるのは貴重だよね」
リュシアは柔らかな笑みを浮かべ、カップに注いだ温かい茶をすする。穏やかなひとときの中で、ふとアマネがエリスティアへと視線を向けた。
「……ねぇ、戦場で言った『殿下をお慕いしています』って……あれ、本気で言ったんだよね?」
その言葉に、エリスティアは一瞬で耳まで赤くなった。慌てて両手で顔を覆うが、ミナがすかさず身を乗り出す。
「やっぱり! 私は直接聞いてなかったけど、今の反応で確信したよ! ねぇねぇ、いつから殿下のこと好きだったの? 戦場で隣に立ってたから? それとも——」
「ちょ、ちょっと待ってミナ! そんな大声で……!」
「大丈夫、ここは女子だけの秘密会議よ」リュシアがくすくすと笑いながら口を添える。その微笑みには年長らしい余裕があったが、興味津々な視線は隠せていない。
エリスティアは俯いたまま、か細い声で答えた。
「……気づいたら、目で追ってしまっていて……。でも、戦場であんなに真剣に守ろうとしてくださる姿を見て……胸が、苦しくなって……」
「きゃーっ!」ミナが布団を叩きながら転げ回る。「もう完全に恋する乙女じゃん!」
アマネも頬を赤らめながらも笑みを浮かべた。「でも、すごく自然だったよ。エリスティアらしい……真っ直ぐな言葉だった」
「……アマネに言われると余計に恥ずかしいです」エリスティアは枕で顔を隠してしまった。
◇
一瞬の沈黙。だがそれを破ったのは、リュシアの少し真面目な声だった。
「……でもね、恋はときに心を強くする。人としての想いがあるから、闇に呑まれずにいられる。エリスティアが殿下を慕う気持ちも、きっと戦う力に変わるはずよ」
「そ、そうなんでしょうか……」
「もちろん!」アマネが力強く頷く。「私だって、アルトがいるから頑張れる」
「うんうん、カイルのこと思うと、私も不思議と力が湧いてくるよ」リュシアも続ける。
「……私はジークがいない人生は考えられない」ミナが少し照れながらも笑った。「なんかさ、みんな同じなんだね」
その言葉に、四人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。緊張も羞恥も溶けて、笑いが部屋いっぱいに広がっていく。
◇
「でもさ……」ミナが笑いの余韻を残しながら呟く。「こういう気持ちを大事にできるのって、幸せなことだよね。戦場にいると忘れそうになるけど」
「うん。だからこそ、大切にしなきゃね」アマネが頷いた。
エリスティアは枕を胸に抱きしめながら、小さな声で呟いた。「……好きになってしまったんです。本当に」
その言葉に、三人は静かに微笑み、そっと寄り添った。戦火に揺れる未来を前にしながらも、この夜だけは——少女たちの秘密の時間が、温かな灯火となって広がっていった。
こうして、姫を囲むお泊まり会の夜は更けていく。
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