ソレイユの誓い
◇
大地を震わせた戦いの余韻が、ソレイユの空気にまだ残っていた。バロルとモラクスを退けた仲間たちは、互いに背を預け合いながらも気を緩めることなく、荒れ果てた戦場に立っていた。疲労に濡れた呼吸が重なり、血と焦げの匂いが風に溶ける。だが、その眼差しには確かな誇りが宿っていた。
「……終わった、のか……?」
ジークが呟くと、仲間たちは無言で頷いた。まだ油断はできない。それでも、全員がこの瞬間まで生き延びたことは紛れもない事実だった。
そんな時、空の彼方から二条の光が舞い降りた。金と銀、太陽と月を思わせる輝き。やがて戦場に降り立ったのは、満身創痍のアマネとリュシアだった。
「アマネ!」「リュシア!」
仲間たちの歓声が一斉に響いた。荒れ果てた戦場に、温かい安堵の色が差し込む。アルトは駆け寄り、息を荒げながらアマネの手を取った。
「……無事でよかった……!」
「アルト……ごめん、心配かけたね」
互いの手の温もりを確かめ合い、微笑みを交わす。涙をこらえるアルトに、アマネは小さく首を振って安心させるように笑った。その姿を見たジークも、胸を撫で下ろす。
一方で、カイルはリュシアを力強く抱き寄せた。
「お前まで失うなんて、考えられなかった……!」
「私だって、絶対に帰りたかったもの。……カイルの元へ」
言葉少なに交わされる想い。互いの存在が、この戦いの支えになっていたことを誰もが理解していた。
◇
「よくぞ戻ってきてくれました」
エリシアとフローラが前へ進み出て、二人を抱き寄せた。王妃たちの瞳には、母のような慈愛が満ちている。
「この地に光を取り戻すために……あなたたちの力は欠かせません」
「本当に、よく耐え抜いてくださいました」
その声に、アマネもリュシアも力が抜けるように笑った。長い戦いの中で張り詰めた心が、ようやく解けていくのを感じた。
「さあ、外套を……」
ミナが駆け寄り、疲れ切った二人の外套を外そうとしたその瞬間——
「えっ……!」
露わになったのは、焼け焦げ、裂け、ほつれた布地。激戦を物語る無惨な衣の乱れだった。戦場の空気が一瞬にして固まる。
「だ、だめだめ! 見ちゃダメ!!」
ミナが顔を真っ赤にして慌てふためき、自分の上着や布切れを掻き集めて二人を覆い隠した。アマネもリュシアも頬を染め、どうしていいかわからず視線を泳がせる。
「わわわっ、ほんとにもうっ……! こんなになるまで無茶して……!」
ジークやアルト、カイルたちは真っ赤になって視線を逸らしたが、その頬には安堵の笑みが滲んでいた。命を懸けた戦いを生き抜いた証がそこにあり、仲間たちは心からその帰還を喜んでいた。
やがて、場には笑いがこぼれた。戦場のただ中だというのに、久しぶりに生まれた穏やかな時間。仲間同士の絆が、緊張に覆われた空気を少しずつ解きほぐしていく。
◇
だが、その温もりに浸る暇も長くはなかった。空を裂くように、重苦しい風が吹き抜ける。遠くルナリア城の方角から、黒々とした瘴気が立ち昇ったのだ。
「……感じるか」
レオンが低く呟く。精霊たちのざわめきが辺りに満ち、アマネとリュシアも顔を上げた。
「まだ……終わっていない」
誰もが理解していた。四天王を討ち果たしてもなお、魔王は生きている。そして今、倒れた配下たちの力を取り込み、新たな段階へと踏み出そうとしているのだと。
「行こう」
アマネが、リュシアと視線を交わす。二人の眼差しには迷いがなかった。
「みんなで……必ず魔王を倒そう」
その声に、仲間たち全員が頷いた。戦火に焼かれ、涙に濡れ、傷だらけになっても——
必ず最後まで戦い抜く。その誓いが、ソレイユの大地に刻まれた。
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