表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

421/471

勝利の影、迫る鼓動

荒れ果てた戦場に、静寂が訪れた。アマネの継星刀が最後の一閃を描き、深淵の影を切り裂いた瞬間、ネビロスの体が崩れ落ち、黒い霧となって散っていく。肩で大きく息をしながらも、アマネはまだ刀を離さなかった。全身に刻まれた傷が痛みを訴えていたが、その瞳は燃えるような光を宿していた。

「……終わった、の……?」

かすかな声と共に、背後から駆け寄る足音。振り返ると、月の光を背にしたリュシアがいた。彼女の衣は焦げ、杖を握る手は震えていたが、その瞳は確かな強さで輝いていた。

「リュシア!」

「アマネ……!」

二人は互いに駆け寄り、強く抱き合った。熱と痛みの余韻を抱えながらも、無事に生きて再会できたことが何よりの救いだった。短い抱擁の後、二人は顔を見合わせ、小さく笑みを交わす。

「勝ったんだね……私たち」

「ええ。でも……まだ」

言葉を交わしたその時、足元に漂っていた黒い残滓がふいに蠢き、空へと吸い込まれるように舞い上がった。アマネとリュシアは驚いて顔を上げた。

ソレイユの戦場では、剣戟の音がようやく止み、アルトが大剣と盾を構えたまま荒い息を吐いていた。その前には、大地を揺らす咆哮をあげていたバロルの巨体が崩れ落ち、轟音と共に沈黙していた。ジークは燃える斧を地に突き立て、ミナは魔導銃を下ろし、肩で大きく息をしている。カイルとエリスティアもまた、最後の矢と術式を放ち終えていた。

「……勝ったのか?」ジークが呟くように言った。

「ええ……私たちの力で……!」エリスティアが震える声で答える。だが、その目は安堵よりも不安を映していた。

その理由はすぐに現れる。バロルの巨体からも、モラクスの氷塊からも、どろりとした黒い残滓が溢れ出し、渦を巻くように空へと昇っていったのだ。誰もが息を呑み、その光景を見上げた。

「……なんだ、あれは……?」アルトが盾を構え直しながら呟いた。

黒き奔流は、まるで意思を持つかのように一直線に飛び去っていった。その行き先がどこか、誰もが直感で悟った。

ルナリア城——。

朽ち果てた玉座の間に、低く重い振動が走る。魔王アトラ・ザルクは玉座に腰掛けたまま、閉じた瞼をわずかに開いた。その瞬間、三方から放たれた黒き残滓の奔流が、轟音と共に彼のもとへと吸い込まれていった。

闇が玉座を覆い、城全体がうねるように震える。城下の空気すら凍りつき、人々は遠くからその異様な光景を目撃して恐怖に震えた。

「……これで揃った」

魔王の唇が、ゆっくりと歪む。声は低く、それでいて世界そのものに響くような脈動を帯びていた。

「真なる覚醒の時は……近い」

アマネとリュシアは荒野の中で立ち尽くし、天へと昇っていく黒の奔流を見送っていた。その表情には勝利の笑みも、安堵もなかった。残されたのは、深い緊張と、次なる戦いへの決意だけだった。

「……戦いは……まだ終わっていない」

アマネが小さく呟いた。その声はリュシアの心に深く響き、二人は同時に空を見上げた。ソレイユの戦場に残った仲間たちもまた、同じ闇の奔流を見上げ、それぞれの胸に同じ決意を抱いていた。

次なる幕が、確かに開こうとしていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ