黎明衝破・双獅終唱
影の奔流が荒野を呑み尽くす。ネビロスの笑い声が闇に反響する中、アマネは血の滲む掌で継星刀を握り直した。その眼差しには、まだ折れてはいない光が宿っていた。
「はぁっ……はぁ……!」
呼吸は荒く、全身は傷だらけ。それでも彼女は足を前へ踏み出す。ネビロスの群れはなお無数に湧き上がり、空を覆う闇が夜そのもののように重く垂れ下がっていた。
「……全部、斬り払う!」
アマネの叫びと共に、刀が閃光を放つ。
『——流星斬!』
尾を引く光が連続して奔り、幾百もの影を切り裂いた。振るう度に星の尾が残り、闇を切り開く煌めきが夜空に道を描く。それでも影は怯まず、次々と押し寄せてくる。
「なら……まとめて!」
アマネは天へと刀を掲げた。刃が蒼白に光り、空一面に星の粒が広がる。瞬間、流れ星の雨が降り注いだ。
『——流星雨!』
降り注ぐ無数の光が影の軍勢を焼き尽くし、荒野に黒煙を上げる無残な残骸を残した。影の大軍は、一瞬で掻き消える。残ったのは、憤怒に顔を歪めたネビロスただ一人。
「貴様……! この私をここまで追い詰めるか……!」
影の大口から響く声は怒りと狂気に満ちていた。地面が裂け、闇の鎖が無数に伸びてアマネを拘束しようと迫る。
「くっ……!」
アマネは刀で必死に斬り払うが、次々と絡みつく影が彼女の腕や脚を切り裂いていく。鮮血が飛び散り、衣は無残に裂け、皮膚に焼けつくような痛みが走った。膝が揺らぎ、今にも崩れ落ちそうになる。
「まだ……倒れられない……!」
その声はかすれていたが、瞳だけは消えぬ光を宿していた。だが、影の嵐が彼女を飲み込み、意識すら薄れていく。遠ざかる視界の中に、アルトの顔が、仲間の姿が浮かんだ。
「アマネ!」
耳の奥で、確かに聞こえた気がした。幻か現かもわからぬ声。しかしその瞬間、胸の奥で光が爆ぜる。
◇
「——負けない。私には、皆がいる!」
影の奔流の中で、刀が再び輝いた。オムニアの囁きが響き渡り、無数の精霊の声がアマネの背を押す。さらに、月の光が彼女を包んだ。遠く離れた場所で戦うリュシアの祈りが届いたのだ。
太陽と月——二つの力が重なり合う。その共鳴がアマネを立ち上がらせた。
「行くよ……ネビロス!」
刀を構えると、黄金の輝きと白銀の光が彼女の背に形を成した。獅子だ。炎を纏う太陽の獅子と、静謐に輝く月の獅子。二頭が咆哮し、荒野を震わせる。
「これが……私たちの光!」
太陽の獅子が前へ駆け、月の獅子がその影を追う。二頭の獅子の奔流がアマネの刀と重なり、眩き光が闇を切り裂く刃と化す。
「——黎明衝破・双獅終唱ッ!」
天地を貫く閃光が放たれた。獅子の咆哮が響き渡り、ネビロスの影を根こそぎ焼き払う。幾千の影が悲鳴を上げながら消滅し、ネビロスの巨体が光に裂かれていく。
「ば、馬鹿な……! この私が……闇が……!」
最後の叫びを残し、ネビロスは光に呑まれて霧散した。荒野に残るのは静寂と、アマネの荒い息だけ。
◇
だが、その勝利は安堵をもたらさなかった。残滓となった影の欠片が渦を巻き、遥か彼方、世界樹の根へと吸い込まれていくのを、彼女は確かに見た。
「……やっぱり……魔王に……」
膝をつきながら、アマネは呟いた。ザガンを討ったリュシアも同じ時刻、己の戦場で光を放っていた。二人の戦いは響き合い、しかしその先に待つ影の巨きさを、誰もまだ知らなかった。
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