表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

420/471

黎明衝破・双獅終唱

影の奔流が荒野を呑み尽くす。ネビロスの笑い声が闇に反響する中、アマネは血の滲む掌で継星刀アストレイドを握り直した。その眼差しには、まだ折れてはいない光が宿っていた。

「はぁっ……はぁ……!」

呼吸は荒く、全身は傷だらけ。それでも彼女は足を前へ踏み出す。ネビロスの群れはなお無数に湧き上がり、空を覆う闇が夜そのもののように重く垂れ下がっていた。

「……全部、斬り払う!」

アマネの叫びと共に、刀が閃光を放つ。

『——流星斬!』

尾を引く光が連続して奔り、幾百もの影を切り裂いた。振るう度に星の尾が残り、闇を切り開く煌めきが夜空に道を描く。それでも影は怯まず、次々と押し寄せてくる。

「なら……まとめて!」

アマネは天へと刀を掲げた。刃が蒼白に光り、空一面に星の粒が広がる。瞬間、流れ星の雨が降り注いだ。

『——流星雨!』

降り注ぐ無数の光が影の軍勢を焼き尽くし、荒野に黒煙を上げる無残な残骸を残した。影の大軍は、一瞬で掻き消える。残ったのは、憤怒に顔を歪めたネビロスただ一人。

「貴様……! この私をここまで追い詰めるか……!」

影の大口から響く声は怒りと狂気に満ちていた。地面が裂け、闇の鎖が無数に伸びてアマネを拘束しようと迫る。

「くっ……!」

アマネは刀で必死に斬り払うが、次々と絡みつく影が彼女の腕や脚を切り裂いていく。鮮血が飛び散り、衣は無残に裂け、皮膚に焼けつくような痛みが走った。膝が揺らぎ、今にも崩れ落ちそうになる。

「まだ……倒れられない……!」

その声はかすれていたが、瞳だけは消えぬ光を宿していた。だが、影の嵐が彼女を飲み込み、意識すら薄れていく。遠ざかる視界の中に、アルトの顔が、仲間の姿が浮かんだ。

「アマネ!」

耳の奥で、確かに聞こえた気がした。幻か現かもわからぬ声。しかしその瞬間、胸の奥で光が爆ぜる。

「——負けない。私には、皆がいる!」

影の奔流の中で、刀が再び輝いた。オムニアの囁きが響き渡り、無数の精霊の声がアマネの背を押す。さらに、月の光が彼女を包んだ。遠く離れた場所で戦うリュシアの祈りが届いたのだ。

太陽と月——二つの力が重なり合う。その共鳴がアマネを立ち上がらせた。

「行くよ……ネビロス!」

刀を構えると、黄金の輝きと白銀の光が彼女の背に形を成した。獅子だ。炎を纏う太陽の獅子と、静謐に輝く月の獅子。二頭が咆哮し、荒野を震わせる。

「これが……私たちの光!」

太陽の獅子が前へ駆け、月の獅子がその影を追う。二頭の獅子の奔流がアマネの刀と重なり、眩き光が闇を切り裂く刃と化す。

「——黎明衝破・双獅終唱ッ!」

天地を貫く閃光が放たれた。獅子の咆哮が響き渡り、ネビロスの影を根こそぎ焼き払う。幾千の影が悲鳴を上げながら消滅し、ネビロスの巨体が光に裂かれていく。

「ば、馬鹿な……! この私が……闇が……!」

最後の叫びを残し、ネビロスは光に呑まれて霧散した。荒野に残るのは静寂と、アマネの荒い息だけ。

だが、その勝利は安堵をもたらさなかった。残滓となった影の欠片が渦を巻き、遥か彼方、世界樹の根へと吸い込まれていくのを、彼女は確かに見た。

「……やっぱり……魔王に……」

膝をつきながら、アマネは呟いた。ザガンを討ったリュシアも同じ時刻、己の戦場で光を放っていた。二人の戦いは響き合い、しかしその先に待つ影の巨きさを、誰もまだ知らなかった。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ