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影に囚われる勇者

アマネの身体は限界を超えつつあった。継星刀を振るうたび、光は確かに生まれる。だがその光は、無数の影の触手に絡め取られ、弾かれ、空へ消えていく。息を吸うだけで胸が焼け、吐くたびに血の味が口に広がった。

「はぁっ……はぁっ……!」

呼吸は荒れ、脚は鉛のように重い。影の刃が腕を裂き、腿を貫き、無数の細かな傷が赤い線となって全身を染めていた。裂け目から溢れ出す熱が、肌を焼き、衣を焦がし、布は細切れになって舞い散っていく。その度に闇が「光を奪った」と嘲笑うように蠢いた。

「まだ……私は……!」

必死に剣を振り上げても、闇は形を変えて迫る。狼の牙、蛇の鎌首、無数の人影。そのすべてが嘲りの声を重ねる。

「勇者……希望の象徴……だからこそ、絶望の果実が甘美なのだ!」

ネビロスの笑声が、空と大地の両方から響き渡る。その声は心臓を直接掴むようで、アマネの意識を揺さぶった。耳の奥にまで影が侵入し、思考を濁らせる。視界が滲み、仲間の顔さえ霞んでいく。

「アルト……リュシア……みんな……」

その名を呼ぶ唇は震えていた。だが声は影に呑まれ、闇の海に沈んで消える。孤独と焦燥が胸を締め付け、勇者であることが呪いのように思えてきた。——自分が光を掲げたせいで、闇をさらに広げてしまったのではないか、と。

「いや……違う……!」

自らを奮い立たせようと叫んでも、声はすぐに影の合唱にかき消される。肩を裂かれ、背を切り裂かれ、鮮血が大地に滴った。血を吸った影は歓喜の声を上げ、さらに力を増して迫る。

「光よ……お前は私の糧だ。勇者よ、もっと絶望せよ!」

ネビロスの影が一斉に襲いかかる。鎖が四肢を絡め、巨腕が体を押し潰そうと迫る。アマネは必死に抗い、剣を振るった。しかし力は削がれ、反撃は影に吸われるように霧散していく。

「ぐっ……あぁっ!」

影の刃が脇腹を抉り、激痛が走る。膝をついた瞬間、上から炎のような黒の奔流が叩きつけられた。地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に抜ける。目の前が白く弾け、耳鳴りが脳を突き抜ける。

布が裂け、肌を覆うものはほとんど残されていなかった。全身に焼けるような痛みが広がり、震える指先が土を掴む。それでも彼女は剣を手放さなかった。地に伏してなお、刀身に宿る微かな光が揺らいでいた。

「……負けない……! 私は……まだ……!」

だが声は震え、涙が滲んで頬を伝う。痛みと恐怖、そして孤独に押し潰されそうになりながらも、心のどこかに小さな光は残っていた。アルトの笑顔。リュシアの声。仲間の瞳。それだけが、闇に呑まれかけた意識をつなぎ止めていた。

ネビロスは勝利を確信したかのように嗤った。

「その血も、傷も、すべては影の糧……勇者、お前の光はここで終わる!」

闇が波となって押し寄せ、アマネの全身を覆おうとしていた。光はほとんど見えず、ただ黒だけが世界を支配する。——だが、まだ消えたわけではない。彼女の胸の奥で、小さな灯火が必死に揺れていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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