表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

417/471

深淵に呑まれる影

アマネの決意をあざ笑うかのように、ネビロスの影はさらに濃く、重く、世界を覆い尽くしていった。大地は黒に沈み、森の木々は影に飲まれて虚ろな残骸へと変わる。まるで世界そのものが、アマネを拒絶しているかのようだった。

「はっ……はぁっ……!」

継星刀を振るうたびに光は走る。だが、その一閃すらも影に絡め取られ、勢いを殺される。腕に、脚に、幾筋もの黒い傷が刻まれ、灼けるような痛みが走った。影は血肉を求め、じわじわと生命力を吸い上げていく。

「どうした、勇者。光を掲げると豪語したはずだろう?」

ネビロスの声が、深淵の底から響く。幾千の影が口を開き、同じ嘲りを繰り返した。

「お前の光など……ただの餌にすぎぬ」

「くっ……まだ……負けない!」

アマネは必死に抗う。だが、影は意思を持つように彼女を翻弄する。頭上からの矢、足元をすくう鎖、背後から迫る刃。いくら斬り払っても、次の瞬間には倍以上の闇が押し寄せてきた。

視界が揺れる。汗と血が混ざり、呼吸が荒い。刀を握る指先に力が入らず、膝が思わず地をついた。

「アルト……リュシア……皆……」

心で名を呼ぶ。だがその声は、影のざわめきにかき消される。孤独。絶望。自らが光を掲げることで、逆に闇を広げてしまうのではないか——そんな不安が胸を締め付けた。

「私は……皆を守れるはずなのに……!」

叫びは震え、喉を焦がす熱と混ざって途切れる。影の刃が頬をかすめ、赤い線を刻んだ。その痛みさえ、彼女には遠く感じられた。

「そうだ……その顔だ。希望を掲げ、絶望に沈む……それこそが至高の愉悦よ!」

ネビロスの嗤い声が轟き、闇は津波のように押し寄せてきた。無数の刃と化した影がアマネの身体を切り裂き、肩口に鋭い痛みが走る。鮮血が弧を描いて散り、衣は裂け、布切れが燃え落ちるように宙を舞った。衝撃で視界が跳ね、膝が地を打ちかける。全身を貫く激痛に呼吸が乱れ、胸が締め上げられる。闇の圧は骨の髄まで食い込み、意識の奥をも侵食しようとしていた。

その刹那、胸の奥で小さな光が瞬いた。アルトの声、仲間の笑顔。ソレイユで戦う皆の姿。それらはまだ、確かに彼女の中にある。だが今は、それを掴む余力さえ残されていない。

「……っ、まだ……負けられないのに……!」

握る剣先が震え、地に影が這い寄る。闇と光の均衡が、今まさに崩れ落ちようとしていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ