影に囚われる剣
森の奥深く、陽光すら届かぬ闇の領域。アマネは継星刀を握り締め、対峙するネビロスを睨んでいた。影の王の周囲には無数の闇の分身が蠢き、地面や木々から滲み出るように現れては、槍や鎖、刃の形をとって迫ってくる。
「斬っても、斬っても……!」
息を荒げながら、アマネは次々と影を払い落とす。しかし刹那ごとに新たな影が生まれ、攻防は果てしなく続いた。光の刃が軌跡を描いても、闇はすぐにその隙間を埋めてしまうのだ。
ネビロスの声が四方から響く。「無駄だ、少女。お前の光が強ければ強いほど、この森は影を深める。影は尽きぬ……お前の存在こそが我を増幅させる!」
その言葉に胸がざわつく。確かに、光を放つたびに影が濃くなり、数が増えている気がした。だが後退は許されない。アマネは奥歯を噛み締め、前へと踏み込む。
「影が生まれるなら、その度に斬り払うまで!」
◇
光刃が閃き、影の鎖を断ち切る。しかし直後、背後から伸びた別の影がアマネの足を絡め取り、体勢を崩させた。倒れ込む寸前、辛うじて地を蹴り、受け身を取る。だが肩をかすめた影の刃が血を滲ませた。
「くっ……!」
痛みが走る。呼吸は乱れ、腕も重い。戦場の空気そのものが闇に沈み、光はかき消されそうだった。
「アマネ!」
幻のように、アルトの声が脳裏に響いた。彼の真剣な眼差し、戦場で幾度も背中を預け合った温もり。その記憶が胸を強く打ち、足を再び立たせる力をくれた。
「私は……負けない!」
◇
だがネビロスは容赦なく迫る。影の槍が空を裂き、十を超える突きが一斉にアマネを貫こうとした。継星刀で弾き、光を広げるが、全ては防ぎきれない。肩、腕、脚に浅い傷が刻まれていく。痛みに膝が沈みかける。
「影に飲まれるがいい、光の子よ!」
嘲笑と共に、森全体が蠢いた。木々の影が伸び上がり、夜空の闇と一体化して降りかかる。まるで大地そのものがアマネを飲み込もうとしているかのようだった。
「はぁっ……くっ!」
刀を振るい続けるも、影は止まらない。息は荒く、肺が焼けるように苦しい。汗が目に入り、視界が滲む。だが——その瞳は消えなかった。遠く、月の輝きを感じていたからだ。
「リュシア……! あなたも戦ってる……!」
◇
次の瞬間、影の鎖が腕を絡め取り、背中を地に打ち付けた。肺から息が漏れ、血が口を伝う。重い闇が体を押し潰し、継星刀さえ握り締めるのがやっとだった。
「これで終わりか、光よ」
ネビロスが姿を現し、闇に溶けた顔に冷たい笑みを浮かべる。その手が振り下ろされ、漆黒の槍が生成される。アマネの胸を狙う、その一撃。
しかし——彼女の瞳はまだ消えていなかった。
「まだ……私は、倒れない!」
血に濡れた唇から迸る声。闇に押し潰されながらも、心の奥底の光がかすかに燃え続けていた。戦いは、始まったばかりだった。
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