灼熱の咆哮
◇
焦げつくような風が吹き抜け、地平線は赤黒く染まっていた。大地そのものが燃え盛るかのように、裂け目から炎が立ち上り、熱気は遠く離れた空までも灼き尽くしていた。その中心に、白銀の髪を揺らしながら立つ一人の少女——リュシア。彼女の瞳は迷いなく前を見据え、継杖を力強く握りしめていた。
「ここが……戦場になるのね」
その呟きが消えぬうちに、天地を震わせる狂気の咆哮が響いた。炎の渦が天を突き破り、現れたのは四天王の一角——ザガン・ルシフェル。全身を赤黒い炎に包み、その肌はひび割れた溶岩のよう。瞳には狂乱の光が宿り、口元には抑えきれぬ笑みが浮かんでいた。
「来たか……聖女よ!」
ザガンの声は熱風そのもののように荒れ狂い、耳を焼くほどに響き渡る。「お前の結界も癒やしも、この炎の業火で灰にしてくれる!」
リュシアは杖を掲げ、静かに応えた。「……ならば、試してみなさい。あなたの炎を、この身で鎮めてみせる」
◇
ザガンの右腕が振り上げられた瞬間、地面が裂け、溶岩の柱が轟音と共に噴き出した。赤黒い炎が一気に広がり、灼熱の奔流が荒野を覆い尽くす。空気そのものが焼かれ、息を吸うだけで肺が焦げるような熱がリュシアを襲った。
「燃えろ! 燃えろ! この大地も空も、すべてを焼き尽くせ!」
ザガンの狂気に呼応するかのように、炎の竜巻がいくつも立ち上がり、荒れ果てた大地を舐め尽くす。燃え盛る音が轟き、夜空までもが赤く染め上げられた。
「……これが、あなたの狂気……!」
リュシアは深く息を吸い、結界を展開した。蒼氷と白炎が同時に噴き出し、互いを打ち消すどころか重なり合い、彼女を守る光壁となる。結界は炎の奔流を押し返し、灼熱の中に一筋の冷気を走らせた。汗が頬を伝うが、その瞳に怯えはなかった。
「私は退かない。守るべきものがある限り!」
ザガンの瞳が狂気にさらに光を増す。「ふはははは! いいぞ、聖女! もっと力を見せろ! 私を楽しませてみろ!」
次の瞬間、ザガンの全身から炎が爆ぜ、幾百もの火矢が雨のように降り注いだ。灼熱の雨が大地を焦がし、世界を焼き払おうとしていた。
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