表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

409/471

二つの道、二つの戦場

夜空を切り裂くように、暁衣と宵衣を纏った二つの影が飛翔していた。アマネとリュシア。互いに視線を交わし、短く言葉を交わす。

「リュシア、太陽の加護を……」

「アマネ、月の守りを……」

刹那、二人の間に淡い光の糸が交わり、加護が重なり合う。その光は太陽と月が一瞬だけ並び立つ奇跡のように眩しく輝いた。だが次の瞬間、漆黒の霧と灼熱の炎が戦場を二分し、二人は否応なく別の方向へと引き裂かれていった。

「ここから先は……それぞれの戦いだ!」アマネが叫び、リュシアが力強く頷く。

影の深淵が広がる森の裂け目。その中央に立つのは四天王ネビロス・ヴェイル。黒衣のような影がその身体を覆い、仮面めいた顔は笑みを浮かべていた。周囲の闇は生き物のように蠢き、低く囁く声が無数に重なって聞こえてくる。

「ほう……お前が勇者の代行か。光を掲げる者ほど、影に呑まれやすい」

「……あいにく、私は光だけじゃない。仲間と、この世界と共に歩む者だ!」

アマネの継星刀アストレイドが光を帯び、星々の煌めきを纏う。対するネビロスの手からは闇が滴り落ち、無数の影が地を這い、木々の隙間から分身が現れる。その姿はアルト、リュシア、ジーク、ミナ、カイル、エリスティア——アマネにとって大切な仲間たち。だがその瞳は濁った闇に覆われ、口元には嘲笑が浮かんでいた。

「……幻影で心を折るつもりか!」

「幻影? 違う。これはお前自身の心に巣くう影……恐れ、後悔、願望。お前が否定できぬ限り、消えることはない」

アマネは一瞬息を呑むが、すぐに剣を構え直す。その瞳には強い決意が宿っていた。「私を惑わせようとしても無駄だ。仲間は私の背を押してくれる存在……偽物で揺らぐことはない!」

星光の剣が閃き、影の分身を裂いていく。しかし裂かれた影はすぐに再生し、アマネの足を絡め取ろうと這い寄る。周囲の闇は深く、森そのものが影の檻と化していく。

「さあ……お前が影に溺れるまで、踊れ!」

ネビロスの声は重なり合う囁きとなり、アマネの心を揺さぶろうとする。だが、勇者の瞳は決して曇らなかった。仲間を守りたい、その一心で剣を振るう。幻影の刃と己の迷いを断ち切るように、振るう一撃は光の雨となって闇を裂いた。

一方その頃。火山帯のように荒れ果てた大地を進むリュシアの前に、狂気の炎が天を突き破るように立ち上った。そこにいたのは、四天王ザガン・ルシフェル。赤黒い炎を全身に纏い、その瞳は狂乱の光を宿していた。

「来たか……聖女よ! お前の結界も、この業火で焼き尽くす!」

「……ならば、試してみなさい。私の炎と氷が、あなたを止める!」

継杖ルミナリアが輝き、紅蓮と蒼氷が同時に噴き出した。炎と氷が相反しながらも調和し、リュシアの周囲に攻防一体の結界を展開する。迫り来る灼熱を押し返すが、ザガンの狂気は止まらない。

「燃えろ! 燃えろ! この大地も空も……お前の魂までも!」

その叫びと共に、地面が裂け、炎の柱が次々と噴き上がる。空気そのものが焼かれ、息をするだけで肺が焦げつくような熱気が荒野を覆った。

「その狂気……私が鎮める!」

リュシアの声は毅然としていた。氷と炎を重ね合わせ、巨大な魔法陣を展開。氷刃と炎槍が同時に放たれ、ザガンの炎の奔流と正面から激突する。轟音と閃光が荒野を覆い、大地は深く抉れた。汗が額を伝うが、彼女の瞳は決して逸れなかった。

「ふはははは! いいぞ! もっとだ! その力を燃やし尽くせ!」

ザガンは歓喜の咆哮を上げ、炎をさらに膨張させていく。その炎は狂気そのもの。しかし、リュシアは一歩も退かず、静かに杖を構え直した。彼女の周囲には氷の華が咲き、炎と対を成す冷気が迸る。熱と冷気の衝突が大地を震わせ、戦場を異界のように変貌させた。

二人は助け合える距離にはいなかった。互いに届かぬ戦場に立ちながらも、心は一つ。太陽と月が交わした誓いの光が、彼らを支えていた。

アマネは影の囁きを断ち切り、リュシアは炎の狂気を押し返す。戦場の轟音の中、二人の声なき誓いが重なった。

「必ず勝って帰る……!」

夜空の下、太陽と月の光がそれぞれの戦場を照らし、二つの決戦が幕を開けた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ