決着の咆哮
轟く衝撃音と氷嵐が戦場を揺るがす。強化を果たしたバロルとモラクスはなおも健在だったが、その牙と爪は、もう先ほどまでの勢いを持ってはいなかった。
「押し返してる……！」エリスティアが矢を番え、風を纏わせて射抜く。精霊弓から放たれる矢が、獣群の突進をことごとく断ち切った。
「まだ倒れねえか！」ジークは炎を纏う轟斧ヴァルガルムを振り抜き、灼熱の一撃でバロルの巨腕を弾き飛ばす。
モラクスの凍結魔法が大地を覆う。しかし、カイルが祈聖書ルーメナスを掲げ、風と氷を組み合わせて結界を展開した。逆に仲間の動きを速める風が吹き渡る。
「行けるぞ、今なら！」
◇
その声を聞き届ける者がいた。ソレイユ城壁の指揮台に立つレオンだ。背後では兵士や市民たちが祈るように戦況を見守っている。レオンの目は戦場の仲間へと注がれ、声が低く、だが力強く響いた。
「皆、持ちこたえてくれ……ここが運命を変える刻だ！」
彼の言葉は兵たちに伝令を通じて広まり、士気をさらに押し上げていく。兵士たちも弓を構え、魔物の波を押し返すために声を合わせていった。
◇
「アルト！」ミナの声が飛ぶ。魔導銃から放たれた魔力弾がバロルの足を縛り、その瞬間、アルトの黎剣セラフィードが光を収束させる。
「今こそ……皆の力を束ねる！」
戦域展開が最大限に広がり、仲間たちの力がひとつに束ねられる。ジークの炎、カイルの風刃、ミナの魔弾、エリスティアの精霊矢。すべてが光の奔流となり、セラフィードの刃に収束した。
「これで——終わらせる！」
アルトの叫びと共に光の刃が放たれ、バロルの胸を貫いた。巨獣の咆哮が夜空に木霊し、その巨体が崩れ落ちる。同時に、ジークとカイル、ミナの連撃がモラクスを押し込み、氷の巨体を粉砕した。黒い瘴気が空へと散り、凍てついた大地が音を立てて崩れていく。
◇
「やった……！」エリスティアの瞳が輝く。だが、その瞬間、戦場全体が不気味な震動に包まれた。倒れたはずの四天王の残滓——黒い瘴気がひとつに集まり、空へと吸い上げられていく。
「これは……！」カイルが青ざめる。
漆黒の霧が世界樹の方角へと伸び、そこから禍々しい鼓動が響いた。魔王アトラ・ザルク。四天王の残滓を取り込み、さらなる進化を遂げつつある気配。
◇
城壁から戦況を見守るレオンが拳を固く握った。
「まだだ……これからが本当の戦いになる。皆、どうか……無事で帰ってきてくれ」
その祈りは戦場に立つ仲間たちの背に届いたかのように、闇の中で一層強く輝く光となった。
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