落ち着け—誓いの通信
ソレイユの戦場に、悲痛な叫びが響き渡った。
「……いやぁぁぁぁぁ!」
エリスティアの声。放った矢は虚空を裂き、大気に消える。彼女の瞳は遠く、誰も見えないはずの世界樹を見つめて震えていた。
「エリスティア!」
駆け寄ったレオンが、戦場の混乱の中で彼女の両肩を強く掴む。激しい衝撃音、咆哮、兵たちの声。だが彼の声はその全てを切り裂くように響いた。
「落ち着け!」
揺れる瞳が、レオンの真剣な視線に引き止められる。熱に浮かされたような呼吸が、わずかに落ち着きを取り戻していった。
「……レオン……」
「何があったかを教えてくれ!」
短いが重みのある言葉。彼女の胸を塞いでいた焦燥が、堰を切るようにあふれ出した。
「……世界樹が……炎と影に侵されました。守り人から念話が……。もう、長くは持たない……。そして……残る二柱、ザガンとネビロスが……ソレイユに……!」
一瞬、空気が凍りついた。剣戟の音や咆哮すら遠ざかったように感じるほどに、仲間たちの顔が強張る。
◇
「……確認する!」
レオンが短く言い、腰に下げた魔導の通信具を展開した。淡い青光を放つ魔法陣が広がり、仲間の紋章が浮かび上がる。
「こちらレオンだ。全員に伝える。世界樹は陥落した。魔王が未契約の精霊の力を奪い、強化されている。そして残る二柱――ザガン、ネビロスがソレイユに迫っている!」
◆
アマネの瞳が鋭く開かれる。「……そんな……!」
リュシアは胸を押さえ、蒼ざめた顔で立ち尽くす。
カイルは歯を食いしばり、無言のまま拳を握り締めた。
アルトは唇を噛み、視線を落とす。
「じゃあ……」ジークが声を振り絞る。「俺たちがここで足止めするしかないってことか……!」
「そういうことだ。」レオンの声は震えなかった。その静かな響きに、仲間たちは己を奮い立たせるように頷いた。
エリスティアは胸に残る痛みを振り払い、矢を握り直す。その姿を見たレオンの瞳が、強く輝いた。
「……まだ終わってはいない。ここで倒れるわけにはいかない!」
◇
炎と氷を操る二柱が迫る戦場。仲間たちはそれぞれの位置で剣を構え、呪を編み、心を固める。だが、胸の奥底に渦巻く予感は、まだ誰にも言葉にされていなかった。
――誰かが、あの二柱を止めなければならない。
――だが、この場を離れることは、仲間を置き去りにするということ。
戦場の熱気と冷気が絡み合うその中心で、アマネとリュシアの視線がふと交わった。言葉はなかった。だが、その瞳に宿るものは同じだった。
(私が……行くしかない)
同じ瞬間に、二人の胸で同じ決意が燃え上がる。
「――私が四天王を止める!」
「――私が四天王を止める!」
声が重なった。驚く仲間たちをよそに、双子のように響く決意の宣言が、戦場の喧噪を切り裂いた。
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