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順調な進軍—募る焦燥

森の朝は、露をまとった葉が光を跳ね返し、清らかな空気で満ちていた。

実践演習二日目――アルトの班は驚くほど順調に進んでいた。

「敵影、前方二十メートル」

地図と魔力探知具を覗き込みながら、カイルが冷静に告げる。

「小型の魔物か。ジーク、先手を頼む。俺が後ろから援護する」

アルトは短剣を抜き、軽やかに構えた。

「任せろ!」

ジークが大斧を肩に担ぎ、一直線に突撃する。

飛び出した魔物は一瞬で斧に押さえ込まれ、そこへアルトが滑り込み、剣で正確に仕留めた。

「見事です、殿下」

リュシアが小さく手を合わせ、祈るように微笑む。

「効率よすぎ! このペースなら予定より早く進めちゃうんじゃない?」

ミナがゴーグルを跳ね上げ、はしゃぐように笑った。

「傷はすぐ治しますね」

アマネが両手を差し出すと、淡い光がジークのかすり傷を癒していく。

「助かるぜ、アマネ!」ジークは豪快に笑った。

こうして討伐は滞りなく進み、班の連携は自然と洗練されていく。

同行する補助教官すら驚いたようにメモを取った。

「……まるで軍の小隊だな。これが“勇者候補の班”か」

騎士教官バルド・エッケルが、遠巻きに呟く。

彼の目は称賛というより、“利用価値を見極める”冷たさを帯びていた。

一方その頃、北方を進む別班。

「はぁ……はぁっ!」

ラインハルト・グランツの取り巻き二人、バルツとエミールは必死に彼の背を追う。

その前方には、牙を剥いた異形の獣が群れていた。

本来、この森に現れるはずのない魔物たち。

「見たか……! 俺はアルト殿下とは違う!」

ラインハルトの手の甲には、禍々しい紋様が浮かび上がっていた。

声は勝ち誇っているはずなのに、明らかに震えていた。

魔物たちは一応彼の命令に従うようでいて、突如として暴れ、木々を薙ぎ倒す。

制御は不完全、むしろ危うい均衡の上に立っていた。

「で、殿下……! 本当に……!」

「黙れ!」

怒鳴りつけたラインハルトの額には、冷や汗が浮かんでいた。

(……なぜだ。なぜ言うことを聞かない。ヴァレンティス閣下は“導く者”と言った……!)

焦燥と恐怖が入り混じり、胸の奥から黒い熱が噴き出す。

「俺は……英雄になるんだ……!」

その呟きは、もはや自分を縛る呪文のようだった。

一方アルトの班。

「殿下、今日はここまでにしましょう」

カイルが提案する。

「これ以上進むと、夜営が難しくなります」

「そうだな。ジーク、焚き火を」

アルトの声に、仲間たちは自然に動いた。

火が灯り、森に安堵の空気が広がる。

「すげーよな。殿下が指示すると、全部うまくいく気がする」ジークが笑い、

「効率最強! 明日で終わりじゃない?」ミナが手を叩く。

「……そうだな」

アルトは微笑みつつも、その瞳は焚き火の奥に沈んでいた。

(……順調すぎる。だが、おかしい。影狼に、今のこの森の静けさ。本来の演習とは違う。何かが、歪んでいる……)

火の粉が弾け、茜の空に散った。

アルトの胸には、消えない違和感と、言葉にできない焦燥が重く沈んでいた。


小さな違和感が積み上がる回。更新は不定期・毎日目標。

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