魔王の狙い—喰らう闇
王城の軍議の間には、重苦しい空気が漂っていた。
大きな円卓を囲むのは、アルフォンス王、エリシア王妃、エリスティア、アルト、レオン、ジーク、カイル、リュシア。
報告を終えた近衛兵の声が消えると、しばし沈黙が支配した。
「……ルナリア陥落。さらに、ソレイユへ四天王が二体迫るか」
アルフォンス王の低い声が広間に響く。
「いよいよ退路は断たれたな」
誰もが顔を曇らせる中、カイルが小さく息を吸った。
彼の瞳には、静かな炎が宿っていた。
「魔王について……一つ、仮説があります」
皆の視線が集まる。
「魔王は、もともと実体を持たなかった。宰相と教皇を取り込み、さらにセドリック王をも喰らって力を増した。
……つまり、魔王は“喰らう存在”。敵であれ味方であれ、取り込むことで糧にするのです」
「……確かに」レオンがうなずいた。
「四天王でさえ養分にされるとすれば、奴にとっては駒に過ぎないのかもしれない」
カイルはさらに言葉を続けた。
「そして……魔王の視線が、もっと大きなものへ向いているとしたら?」
「大きなもの……?」アルトが眉をひそめる。
その時、エリスティアが小さく身を震わせた。
彼女の胸の奥に、精霊との共鳴から来る直感が響いていた。
「世界樹よ」
透き通るような声で、エリスティアは言った。
「魔王は、世界樹の精霊の力をも取り込もうとしているのかもしれない」
広間にどよめきが走った。
「世界樹を喰らう……だと……?」ジークが苦々しく吐き捨てる。
「そんなことが許されれば、大地そのものが闇に呑まれるじゃねえか!」
「魔王は、ただ暴れるだけの存在ではない」エリシア王妃が静かに言葉を添える。
「明確な意志で、根源を狙っている……そう考える方が自然ね」
アルフォンス王が深くうなずき、剣を握る手に力を込めた。
「ならば、ここからが本番だ。敵の狙いを見据え、我らはその一手先を打たねばならぬ」
重苦しい空気はそのままに、しかし皆の瞳には決意が灯る。
魔王の正体は、喰らい続ける闇。
そしてその次なる標的は、世界樹——世界そのものだった。
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