迫る影—陥落と急報
王城の謁見の間は、昼でありながら薄暗い。雲が空を覆い、差し込む光はわずかに曇っていた。その中で国王アルフォンスが玉座に腰を下ろし、周囲には王妃エリシア、王太子レオン、そしてアマネたちが揃っていた。緊張を孕んだ静けさの中、扉が勢いよく開かれる。
「急報! ルナリア国、完全に陥落――!」
全員が息を呑む。駆け込んできた伝令の兵士は、泥にまみれ、息も絶え絶えだった。
「……なに……!」エリシアの声が震えた。彼女はルナリア女王フローラを案じて目を見開く。隣のレオンも表情を険しくし、玉座に座るアルフォンス王に向けて深く頭を垂れた。
「父上、これは……」
「詳しく報告せよ」アルフォンス王が低い声で促す。
「はっ……! 王都は壊滅し、城も制圧されました。生存者は散り散りに逃げ延びた模様……。守り人たちからは、『魔王軍が世界樹へ進軍を開始した』との念話が!」
場にいる誰もが言葉を失う。エリスティアは拳を強く握りしめ、瞳を伏せる。世界樹――自らの血筋が守り続けてきた聖域が、ついに魔の手に晒されてしまったのだ。
◇
重苦しい空気を切り裂くように、別の兵士が駆け込んできた。
「さらに急報! ソレイユ領内に、巨大な魔物が二体、接近中との報せ!」
「なに……!」今度はレオンが声を荒げた。「どの方面だ!」
「東の国境付近に出現。規模は不明ですが、四天王級と目されています!」
仲間たちが一斉に顔を見合わせる。ジークの眉がひくつき、ミナは銃を抱えるようにして構え直す。リュシアも息を呑み、アマネは拳をぎゅっと握った。
「……とうとう来るのね」リュシアが小さく呟いた。
◇
アルフォンス王が玉座から立ち上がり、声を張る。
「全軍に通達せよ! 城下を固め、市民を避難させよ! この国の未来を守るため、我らは退かぬ!」
その堂々とした姿に、兵たちは「ははっ!」と声を揃え、駆け出していった。
王城の広間に残されたのは、アマネたちと王族たち。重々しい沈黙の中で、レオンが皆を見回す。
「……次は軍議だ。四天王級の相手、世界樹の防衛……すべてを同時に考えねばならない」
エリスティアは深く息を吸い、仲間たちに視線を向ける。その眼差しは迷いを越えて、固い決意に燃えていた。
「……必ず守り抜く。世界樹も、この国も。そして女王様も」
その言葉に、皆の胸が同じように熱くなる。嵐の前の静けさは、すでに終わりを告げていた。
お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。