リュシアの精霊の儀
庵を満たす光が一度静まり返る。仲間たちがそれぞれ精霊との契約を果たし、最後に残されたのはリュシアだった。静かな空気の中、月光が差し込み、神樹の芽に寄り添うように彼女を照らす。
「……私の番、ですね」
リュシアは静かに歩み出る。継杖を胸に抱き、瞳を閉じた。仲間の背中を見届けてきた温かな記憶が、彼女の中に確かな覚悟を芽生えさせていた。
◇
意識が白銀の月光に包まれる。そこは夜空の静謐そのものの世界。星々が瞬き、穏やかな潮のような光がリュシアを包んでいった。
――私は月。太陽と対をなし、光と影を統べるもの。
静謐な声が響き、月の精霊が姿を現す。優美な光の揺らめきは、アマネの太陽と対をなす存在であった。リュシアは息を呑み、深く頷く。
「あなたは……私にとって欠けていた片翼。どうか、共に」
月の光が彼女に寄り添う。その瞬間、別の気配が押し寄せた。炎、氷、雷、水、土、風――六属性が渦を巻き、眩い光の奔流となってリュシアを包み込む。
――我は万象を統べるもの。すべての力を束ねる意志。
六つの属性が一つに重なり、名もなき存在が顕現した。彼女の杖が震え、無数の魔法陣が広がって結界のように空間を覆う。
「全てを……ひとつに?」
リュシアは自らの心に問いかける。仲間を護るため、戦い抜くため、その力が必要なのだと。迷いはなく、彼女はまっすぐに答えを口にした。
「私はリュシア。聖女であり、仲間の盾であり、導き手でもある。あなたたちの力を、私の祈りに重ねさせてください!」
月の光と六属性の奔流が交わり、彼女の全身を包み込む。二重の力が調和し、彼女の存在そのものを新たに形作っていった。
◇
現実へと戻ると、庵は白銀と虹彩の光に包まれていた。仲間たちは思わず息を呑む。アマネが微笑み、アルトが言葉を失い、ミナとジークもただ見惚れていた。カイルは祈るように頷き、エリスティアの瞳には感涙が浮かんでいた。
リュシアは杖を掲げ、その名を宣言する。
「月の精霊――その名は『ルナ・セレーネ』!」
月光が瞬き、静かな響きが庵に広がる。
「そして、六属性を束ねる存在――『エレメンタリア』!」
虹の奔流が広がり、仲間たちの胸に深く刻まれた。太陽と月、そして全属性の統合。それは勇者と並び立つもうひとつの極だった。
「これで……私たちはひとつになれます。誰一人、欠けることなく」
リュシアの声は揺るぎなく響き、庵の空気を満たした。神樹の芽は強く輝き、庵に集った者たち全員を祝福するように、その光を未来へと解き放っていった。
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