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芽吹きの共鳴

庵に満ちていた沈黙は、先ほどの誓いを胸に刻んだ余韻だった。篝火が小さく爆ぜる音さえ、ひどく大きく響く。誰もが口を閉ざし、神樹の芽の輝きを見つめていた。

その時だった。

掌に収まるほどの小さな芽が、かすかな脈動を刻むように淡い光を放ち始めた。

白とも翠ともつかぬ輝きは、生き物の呼吸のように強弱を繰り返す。

静かな庵の空気が、確かに変わった。

「……これは……」

リュシアが杖を抱き直し、目を細めた。

アマネもまた、胸の奥に小さな熱を感じていた。

それは恐怖ではなく、何か大きなものが呼びかけている確信。

最初に応じたのは、庵の床に身を横たえていた白狐カグヤだった。

その体毛がふわりと逆立ち、白光が一斉に弾ける。

月光を閉じ込めたような輝きが尾から滴り、芽の光と溶け合っていく。

「……カグヤ……」

アマネが思わず声を漏らす。

白狐は静かに瞳を閉じ、芽に歩み寄った。

その姿はまるで月そのものが地に降り立ったかのようで、仲間たちは息を呑む。

次の瞬間、庵の外で風が鳴った。

氷の粒を含んだ風が吹き込み、篝火が揺れる。

その風の中から、巨大な影が現れた。

銀灰の毛並みを揺らし、蒼の瞳を輝かせた狼――《聖獣ヴァルディア》。

かつてリュシアとカイルに救われたその聖獣が、芽に導かれるように姿を現したのだ。

「……ヴァルディア……」

カイルの胸に、あの日の温もりがよみがえる。

狼は低く喉を鳴らし、カグヤの隣に並んだ。

月光と氷霧――二つの守護が、芽を挟んで響き合う。

芽の光はさらに強くなった。

白と蒼の光が溶け合い、庵の中を大河のように流れていく。

それは言葉ではない。けれど確かに理解できる――「選ばれし者たちに力を示す」という意志。

波紋は仲間たちの胸奥へと届いた。

リュシアは目を閉じ、闇の中に月の光を感じた。

アマネの瞳には、流星の閃きが瞬いた。

アルトは胸に守護の盾を抱くような感覚を覚え、

ジークには炎の唸りが、

カイルには風と氷の調べが、

ミナには理と術の囁きが届いた。

エリスティアには、森そのものの深い息吹が重なっていた。

一人ひとりが違う気配を感じ取りながらも、それは確かにひとつの源から広がるものであった。

神樹の芽――精霊の根源。

「……始まる」

ルシアンの低い声が、庵の空気を震わせた。

「これは試練であり、祝福だ。お前たちの内に眠る絆が、精霊を呼び覚ます」

芽が宙に浮き、光の環が仲間全員を包み込む。

眩しさに目を閉じた瞬間、胸の奥で確かに何かが囁いた。

――ここからが本当の始まりだ。

光は脈打ち、庵の天井を突き抜けて夜空へ昇っていく。

月と星とが呼応し、世界そのものが彼らを照らし出す。

仲間たちは互いの顔を見た。

恐れはない。あるのはただ、確かな覚悟。

そして――精霊の儀が始まる。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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