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幕間:古き記録—建国の影

夜更けの学園。

蝋燭の灯りだけが廊下を揺らし、静寂が石造りの壁に沁み渡っていた。

その奥、地下へ続く階段を一人の老人がゆっくり降りていく。

――エジル・カーネル。

彼が辿り着いたのは、学園長のみが権限を持つ地下書庫。

封印に近い古文書や石板が眠る場所だった。

木箱を開き、革表紙の書を取り出す。

表紙にはかすれた金字が残っていた。

「建国録」

エジルは眼鏡を外し、蝋燭に照らしてページをめくった。

最初に現れたのは、神話調の伝承。

「勇者は神に選ばれし刃を掲げ、聖女は光の祈りを捧げた。

魔王はその力に討たれ、闇は退けられた」

庶民や子供に語られる寓話。

勇者と聖女が“魔王を討った”という、分かりやすい勝利譚。

次の章に進むと、史実の記録が現れる。

「勇者と聖女は国を救った。

だが、魔王は討たれたのではなく――“封じられた”。」

さらに行を追うと、小さく記されていた。

「封印の際、一人の若者が“光の礎”となった」

名前も家もなく、ただ“礎”とだけ。

その記述に、エジルの指先がわずかに震える。

「……やはり、ここにも“依代”の影が残っているか」

さらに奥の余白に、走り書きが残されていた。

筆跡は乱れ、署名もない。だが意味は明確だった。

「次こそは――依代を救え」

古びた文字が、蝋燭の灯に浮かび上がる。

エジルは深く息を吐いた。

「……庵が伝えてきたのは、この願いか」

本を閉じ、闇の中に目を細める。

宰相ヴァレンティスの動き。

学園に現れた聖女候補。

勇者の資質を持つ少年。

すべてが重なり合うように、時代は渦を巻き始めている。

「……間に合うのか。いや、あの子たちなら――」

独白は夜気に溶け、静かな書庫に吸い込まれていった。


地下書庫の小話でした(世界観補強回)。不定期・毎日目標で続けます。

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