守り人の念話
世界樹を護る森は、なおも傷の痛みに呻いていた。折れ伏した木々、焦げた葉の匂い、倒れ伏す守り人たち――その全てが先ほどの侵攻の苛烈さを物語っている。
長老格の守り人、白髪を編んだ男が膝をつきながら両手を地に当てた。彼の額から汗が滴り、唇は震えていた。それでも、その瞳には揺るぎない光が宿っていた。
「……聞こえるか。世界を繋ぐ子らよ」
男の声は風に乗り、精霊の加護を通して遠く離れた地へと届いていく。目を閉じた彼の口から、断続的に言葉が紡がれた。
「精霊の根源が狙われている。……急ぎ戻れ。時が、迫っている」
◇
その声は、遥か離れたソレイユの城下町に届いた。夕暮れの街並みを望む高台で、エリスティアは不意に胸を押さえた。強く脈打つ心臓に合わせ、頭の奥に響く声。懐かしいようで、冷たい警鐘の響きだった。
「……今のは……」
仲間たちが怪訝そうに振り返る。アマネが心配そうに近づき、「大丈夫?」と声をかける。エリスティアは短く息を吸い、感覚を確かめるように矢筒へと手を添えた。
「……大丈夫。でも、精霊の森が危険だと感じる。近くで何かが起こっているのかもしれない」
彼女の言葉に、リュシアは真剣な表情でうなずき、カイルとジークも互いに視線を交わす。それぞれに緊張を察し、自然と背筋が伸びていった。
「警戒を強めよう。今夜は誰も気を抜かない方がいい」ジークが低く告げ、アマネも「そうだね」と頷いた。
◇
その夜。仲間たちが休む宿の一室で、エリスティアは窓辺に腰を下ろしていた。夜風が彼女の髪を揺らし、遠い森の匂いを運んでくるように思えた。
(……必ず守らなければ。あの大樹を、精霊を。そして――女王様を)
静かな決意が彼女の胸に芽生える。だが先ほどとは違い、その想いを明日には皆に相談しようと心に決めていた。やがて訪れる戦いの影を感じ取りながらも、彼女は静かに目を閉じた。その背筋は震えるのではなく、仲間と共にある確信で少しずつ強くなっていた。
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