訃報の夜—亡命者の声
祝祭の熱気が冷めやらぬ夜。精霊灯が空に舞い、王都は幻想的な光に包まれていた。人々は笑い、歌い、踊り、亜人と人間が肩を組んで声を上げる。これまでにない一体感が広場を満たし、未来への希望を確かに形にしていた。
だが、その空気を切り裂くように、急を告げる馬の蹄音が遠くから響いた。広場の喧騒の裏で、緊張が忍び寄る。
◇
王城の一室。祝祭の中心にいた王妃たちが急ぎ呼び戻される。フローラ、エリシア、そしてクラリス。そこへ駆け込んできた伝令は、荒い息を吐きながら膝をついた。
「ルナリア王国より急報! セドリック王……崩御!」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。フローラの瞳が大きく見開かれ、唇が震える。エリシアが思わずその手を握り、クラリスはただ静かに目を伏せた。
「……そんな……」
フローラの胸に押し寄せたのは、夫を失った悲しみと同時に、王国の未来を託されるという重責だった。だが悲嘆に暮れる暇はない。伝令は続ける。
「加えて、国境付近で魔王軍の影が確認されたとの報せも……!」
◇
やがて王都に戻ってきた亜人代表たちが、フローラのもとへ集った。狼の戦士長は深く頭を下げ、言葉を紡ぐ。
「フローラ殿。あなたは我らと心を通わせ、共に歩むことを示してくれた。今、王を失ったルナリアを導けるのは……あなたしかおらぬ」
「そうだ。王妃であるあなただからこそ、女王として立ち、亜人も人間もまとめるべきだ」
次々に寄せられる声。その瞳には信頼と期待が宿っていた。
フローラは立ち上がり、震える手を胸に置いた。涙は溢れていたが、その瞳はまっすぐに未来を見据えている。
「……わかりました。私が、この身をもって応えましょう。ルナリアの女王として、皆と共に歩みます」
その言葉に、場の誰もが息を呑んだ。次の瞬間、拍手と歓声が広間を満たし、亜人も人間もひとつに声を上げた。
◇
祝祭の灯火がまだ夜空に揺れている。その光を背に、フローラは新たな女王として立った。悲しみと責務を背負いながらも、その姿は凛として揺るぎなかった。
しかし、祝福の裏では魔王軍の脅威が着実に迫っている。王都の喜びと不安が交錯する中、新たな物語が静かに幕を開けようとしていた。
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