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祝祭の幕開け

朝日が差し込むと同時に、王都は色鮮やかな飾りで包まれていた。広場には亜人と人間が肩を並べ、屋台から漂う香りが空気を甘くする。子どもたちの笑い声、太鼓や笛の音色が重なり合い、まるで世界そのものが祝福しているようだった。

「さぁ、始まるわよ!」

王妃エリシアは舞台袖でそわそわと足を鳴らしていた。その隣でフローラは落ち着いた笑みを浮かべ、クラリスは扇で頬を隠しながら周囲を観察している。アサヒは冷静に視線を巡らせ、ブリューナとファエリアは「準備万端だ」と親指を立てた。女子会メンバーが企んだ“仕掛け”が実行される瞬間である。

「エリスティア、ちょっとこちらへ」

フローラが自然に声をかけ、舞台の飾り付けを確認する名目で彼女を舞台裏へと誘う。そこには、進行役として呼ばれた王太子レオンの姿があった。

「殿下、こちらの装飾について意見を伺えますか?」アサヒが淡々と切り出す。

「もちろんだ」レオンはいつものように穏やかに応じた。その視線が隣に立つエリスティアに向けられる。彼女もまた、静かに会釈を返した。二人の間に一瞬、言葉にならない空気が流れる。

舞台上では、開会の演目が始まっていた。亜人の楽団が奏でる旋律に人間の舞踊団が合わせ、観客から歓声が上がる。その熱気を背に、舞台裏ではレオンとエリスティアが並んで飾り付けを見上げていた。

「……精霊灯の配置、整然としているな」レオンが呟く。

「流路も安定しています。ファエリアの術式はやはり見事ですね」エリスティアが答える。真面目な会話のはずなのに、互いに視線が合うと、どちらも少しだけ言葉を選ぶようになった。

クラリスは舞台袖からそれを見て、くすりと笑う。「やっぱり悪くないわね」

エリシアが肘で突く。「でしょ?ちょっとした接点で十分なのよ」

フローラは微笑みながらも、二人の距離を見守っていた。無理強いせず、自然な流れに任せる――それこそが成功の鍵だと知っていたからだ。

祝祭は盛大に続き、昼を過ぎても熱気は冷めなかった。屋台を回る家族連れ、亜人と人間が一緒に踊る姿。王都全体が一つに溶け合う光景は、これまでの隔たりを忘れさせるものだった。

「見て、エリスティア殿」レオンが不意に言葉を漏らした。彼の目は広場の人々に注がれている。「この景色を、私は守りたい」

エリスティアは横顔を見つめ、静かに頷いた。「……私もです」

二人の言葉は短いものだったが、その胸に宿る想いは同じだった。舞台袖の女子会メンバーは、にやりと笑みを交わし合う。小さな芽は、確かに植えられたのだ。

日が傾き始め、祝祭のフィナーレに近づく。空には灯りが舞い、精霊灯が夜空を彩る準備が進められていた。その明かりの下、二人が再び並んで立つ姿を、皆が見守っていた。

笑顔と祝福に包まれた王都。しかしその影で、まだ誰も知らぬ不穏な報せが、静かに近づいていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

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